第1章 業苦の鬼

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「ココまでは誰でも知ってるんだけどね、オレは独自のルートで、さらに細かい情報を仕入れたわけさ!」  さらに鼻の穴を膨らませ、大きく息を吐いてから話を続けようとした良昭の頭が突然、細い指に鷲掴みにされた。 「独自のルート? 第一発見者のお知り合いが偶然、良昭さんの近くにいらしたからでしょう?」  もう一人の貴重な情報源が登場し、康則は口元を緩める。  「日向子さーん、オレの身長コンプレックス刺激するのヤメテください! 縮んじゃう、縮んじゃうよ!」  鞠小路日向子(まりこうじひなこ)は、わざとらしくジタバタ逃れようとする良昭の頭から手を離し、肩に掛かる長い黒髪を背中に払った。  日本舞踊家元の令嬢らしく、すっと背筋が伸びた立ち姿が美しい。ただし学園内での行動と言動は、とても名家令嬢に似付かわしいものではなかった。 「康則さま、良昭さんの情報はもう皆さんが知っています。この方は教室に入るなり大騒ぎして、まるで春先の椋鳥のように煩かったんですよ?」  二人の並んだ様相は、背の高い女王と小さな下僕だ。笑いを噛み殺し、康則は良昭に尋ねた。 「あいにく、俺の耳には入ってないんだ。教えて欲しいな」  日向子に向けて精一杯の睨みをきかせたあと良昭は、打って変わった真顔を康則に向けた。 「いま、死因と死亡推定時刻は不明だって話しただろ? それってさ、死体の外見が特殊すぎて警察も頭抱えてるんだよ」 「特殊?」  聞き返した康則の脳裏に、嫌な予感が走る。 「オレんちで働いてる家政婦のオバチャン、第一発見者の姉なんだけどさ。死体の肌がビーフジャーキーみたいな赤紫色で、カビみたいな苔みたいな緑色の模様が所々にあって、最初は枯れ木の上に制服が脱ぎ捨ててあるのかと思ったって!」  そこまで一気にまくし立てた良昭は、大きく鼻から息を吸い、声を落とした。 「それが近付いてみたら、真っ白な目玉と歯が剥き出しになっていて、鼻とか耳からは真っ赤な血がダラダラとさぁ……え? どうしたのさ康則?」  そんな馬鹿な……! 平静を失い、思わず腰を浮かせてしまった。 「あ、いやっ、良昭の話で日向子さんが倒れそうになってるから」  口元に手を当て、真っ青な顔で立っていた日向子の足がふらついている。素早く立ち上がり、その肩を支えた。 「大丈夫?」 「べっ、別に……何でもありませんわ!」
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