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「ココまでは誰でも知ってるんだけどね、オレは独自のルートで、さらに細かい情報を仕入れたわけさ!」
さらに鼻の穴を膨らませ、大きく息を吐いてから話を続けようとした良昭の頭が突然、細い指に鷲掴みにされた。
「独自のルート? 第一発見者のお知り合いが偶然、良昭さんの近くにいらしたからでしょう?」
もう一人の貴重な情報源が登場し、康則は口元を緩める。
「日向子さーん、オレの身長コンプレックス刺激するのヤメテください! 縮んじゃう、縮んじゃうよ!」
鞠小路日向子(まりこうじひなこ)は、わざとらしくジタバタ逃れようとする良昭の頭から手を離し、肩に掛かる長い黒髪を背中に払った。
日本舞踊家元の令嬢らしく、すっと背筋が伸びた立ち姿が美しい。ただし学園内での行動と言動は、とても名家令嬢に似付かわしいものではなかった。
「康則さま、良昭さんの情報はもう皆さんが知っています。この方は教室に入るなり大騒ぎして、まるで春先の椋鳥のように煩かったんですよ?」
二人の並んだ様相は、背の高い女王と小さな下僕だ。笑いを噛み殺し、康則は良昭に尋ねた。
「あいにく、俺の耳には入ってないんだ。教えて欲しいな」
日向子に向けて精一杯の睨みをきかせたあと良昭は、打って変わった真顔を康則に向けた。
「いま、死因と死亡推定時刻は不明だって話しただろ? それってさ、死体の外見が特殊すぎて警察も頭抱えてるんだよ」
「特殊?」
聞き返した康則の脳裏に、嫌な予感が走る。
「オレんちで働いてる家政婦のオバチャン、第一発見者の姉なんだけどさ。死体の肌がビーフジャーキーみたいな赤紫色で、カビみたいな苔みたいな緑色の模様が所々にあって、最初は枯れ木の上に制服が脱ぎ捨ててあるのかと思ったって!」
そこまで一気にまくし立てた良昭は、大きく鼻から息を吸い、声を落とした。
「それが近付いてみたら、真っ白な目玉と歯が剥き出しになっていて、鼻とか耳からは真っ赤な血がダラダラとさぁ……え? どうしたのさ康則?」
そんな馬鹿な……! 平静を失い、思わず腰を浮かせてしまった。
「あ、いやっ、良昭の話で日向子さんが倒れそうになってるから」
口元に手を当て、真っ青な顔で立っていた日向子の足がふらついている。素早く立ち上がり、その肩を支えた。
「大丈夫?」
「べっ、別に……何でもありませんわ!」
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