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赤銅の光彩、邪気を宿す縦に細い金色の瞳。
〈一角鬼童子(ひとつつのおにわらし)〉だ。
歯茎をあらわに長い牙で噛み咥えているのは、人間の足だった。黒革のツナギ、見覚えあるブーツ。
「よくも……!」
怒りに血が沸き立ち、身体が熱を帯びた。
鼓動を抑えるため息を深く吸い込んだ康則は、冷静に刀身を八相に構える。
鬼は鼻息荒く咥えた足を振り回しながら、柘植の植え込みから全身を現した。
盛り上がった肩が、肘から切り落とされた腕が、一枚岩のような胸筋が、野獣の皮に覆われている。
嘗て、人であった名残は一欠片も残ってはいない。
咽を反らし肉塊を飲み込んだ鬼は、次の獲物に獰猛な牙を剥いた。
血の臭いが混じる生臭い息が、康則の鼻先まで来た時、一条の光が翻る。
一瞬、動きを止めた鬼の上体が、斜めに揺らいだ。
なおも、喰らいつこうと足を踏み出した途端、胴が真二つに分かれる。
容れ物から開放され、撒き散らされる内臓を浴びない距離に、康則は素早く飛び退いた。
飛沫を立て、餌となり喰い散らかされた肉塊の海に倒れ込む巨体。
しかし、まだ獲物を求めて動かせる頭と肩で地を這い、石に牙を突き立て、にじり寄ろうとする。
足下で蠢く、見苦しく哀れな姿。
眉を寄せて康則は、わずかに覚えた感情を押し殺した。
「悪いね……餓えと渇きから開放できるのは、俺じゃない」
同情も憐れみも必要ない。この者は既に、人ではないのだ。
「康則……さま」
絶え絶えの息で名を呼ばれ、康則は周りを見回した。
目を凝らすと、鬼が潜んでいた辺りで黒い影が動いている。急いで駆け寄った場所に、先発部隊員の一人が倒れていた。
左手と左足が付け根から喰い千切られ、大量に出血している。
「ご報告……します。頭目は三つ角、高槻家の御長女、頼子様です。配下は一つ角が七体……うち四体は我々の手で戦闘不能にしましたが、八名の先発隊員は全滅。申し訳ありません……」
「残る三体のうち、一体を倒しました。心配いりません、あとは自分に任せてください」
「お願いします……あの方を、お守り……くだ……さ……」
二十歳代と思われる部隊員は右手を中空で握りしめ、言葉なかばで絶命した。
若干十七歳の康則に後を托すのは、さぞや無念であっただろう……。
見開かれた死者の目を、そっと塞いだ。
「頭目は三つ角……〈三角鬼童子(みつつのおにわらし)〉か、強敵だな」
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