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「大丈夫ですか!!!?」
緊迫した大きな声に驚いて振り返る。
薄いクリーム色のトレーナーにテロっとしたラフなパンツ姿の女性が一人の老人に駆け寄っていた。
痛そうに顔を顰めている60代のお婆さん。
「何処が痛いですか?」
これは、旅館の人を呼ぼう。
そう思ったとき、
「頭は打っていませんよね?」
痛そうな顔のままお婆さんが頷いたのを見て背中に背負う。
あんなに細い体で無理だろ。
俺が…。
近寄ろうとした時にグッと立ち上がり真剣な顔でフロント方面に歩いていく。
お婆さんを背負ったまま転んだりしないかな?
何故か気になって後を追った。
すでにフロントに着いていた彼女はロビーのソファーにお婆さんを座らせていた。
「お婆さん大丈夫ですか?痛みは?」
「まだかなり痛いけど自分ではどうにもできなかったわ。助けてくれてありがとう。」
彼女は首を小さく振り、
「助けるだなんて大層な事、私はしていないです。当たり前の事をしただけですから。」
「大丈夫か?お前!!!」
ご主人らしき老人が血相を変えて走ってきた。
「部屋に戻ろうとして段差で転んだのよ。このお嬢さんに助けられたの。」
ご主人とお婆さんにお礼を言われて恐縮している彼女。何の変てつもない何処にでもいそうな…。
ただ、お婆さんを背中から降ろした時に見えた爪のネイルが彼女とはアンバランスに見えた。
救急車が来て担架で運ばれていったお婆さん。救急車が走り去った後俺も部屋に戻ろうとしたんだけど動けなかった。
何の変てつもない彼女がとても優しい顔で微笑んでいた。
綺麗だった。
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