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王子の想い
ある晩のこと。それは真夜中の話。
時刻は夜中の二時。居酒屋の無いこの通りはシーンと静まっ
て、誰も歩かない。犬も猫も吠えない。ただ草花が星々を眺
めてるだけ。
「チン」って、二十五階でエレベーターが鳴った。その
音は、「おりん」の音より高い。
「おりん」とは仏壇に置かれる仏具で、木魚と同じ梵音具
(ぼんおんぐ)のこと。それは扨て置き、別に珍しくない
けれど、エレベーターから田島さんがヌボーッと現れた。そ
してパンジーの横に立つと何気に話し掛けた。
「最近はどうなんだい?」
「変わりないよ」
田島さんはパンジーの揺れた心が気になった。
「最近会ってないが、ルビーさんは元気かい?」
そう言うと田島さんはスーッと床へ座ったが、ダイヤ王子は
ロボットの青い瞳から亡霊を切なく見つめた。
「僕は彼女を見ると、酷くもどかしくて心が落ち着かない。
なぜだろう」
今度は田島さんがパンジーの瞳をじっと見つめこう言った。
「ルビーさんを好きになったんだね」
「僕はよく分からない。だけど彼女のためならどんなことで
もするつもりだ。こんな気持ち初めてだ。僕は来年婚約
するが、人の体に戻ったら断りたい」
「そこまで想ってるんですね。ですが彼女の気持ちを知る必
要がありますよ。そうですね……。ロボットのままでいいじゃ
ないですか?」
田島さんがスーッと立ち上がって不気味に笑った。
「そのまま気持ちを伝えればいいんですよ。諦めずに頑張
りなさい」
それだけ言い残すと、真っ黒な気は彼の部屋へ姿を消した。
「田島さんありがとう。しかし頑張りなさい、じゃない……。
ああ、ロボットから離れる方法を誰か知らないか」
王子はむしゃくしゃした。ブルーサファイアの瞳に夜空を映
し、酷く大きなため息ついた。
「チン」再びエレベーターが鳴った。
「ロボットさん、こんばんは。今夜はいい星空ですね」と、
今度は宇宙人の山島さんだった。
「山島さんか……」王子は落胆してた。
「ねえ。ロボットさん。どうしたの?」と、今度は子どもの
田島さんが尋ねた。
「大人の悩みだよ」
王子がため息つくと、大きくなった山島さんがこう言った。
「ロボットの君は大人だったのか……。悩みは内に秘めてはい
けないよ。そうさ、外へ出せばいいのさ」
「それが出来ればね」青い瞳は悲しげだった。
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