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「やっぱり!」
二人そろって言ったならば、「ハッピーアイスクリーム!」
と、互いに肩を叩いた。
「僕が思った通りだ。八重咲ルビー様、ですね」
「はい、そうです。いつ頃から気付いてたの?」
私はカップをテーブルに置いた。
「ああ、僕と衝突したあの日。ルビー様のカードに王家の紋章
が微かに見えました。まさか王女様がここにいるはずないと思
ったのですが……。それで僕はルビー様をレストランへ
誘いました。ところが見事パンジーが邪魔したのです……」
あれは、もう何年も前。父の友人が家族そろって別荘へ訪ねた
ことがあったけれど、彼の息子は私と同じくらいの年齢だった。
父達は椅子に座りお茶を飲みながら、会話を楽しんでたが、私
は蓮華の花一面咲いた庭で、花摘みしてた。そんな私を少し
離れた所から彼が見守ってた。
私はふと彼の胸に輝くペンダントに魅了された。
「ねえ」って、私が近寄れば、一定の間隔を開けるように言わ
れた彼は、その分後ろへ下がった。
「お願い。下がらないで」私がそう言うと、彼はビクッとし
た。
「あの、そのペンダント。見せて下さらない?」
私が傍によると、彼は胸からペンダントを外した。
「ぼ、僕の家柄を証明するものです」と、彼は照れくさ
そうに言ったけれど、私はそっと手のひらに載せて、
「金色の獅子の紋章なのね。美しいわ」って、微笑んだ。しか
しながら彼と会話したのはこの時だけだった……
ルチルさんは晴れやかな表情だった。そして、「お久しぶりで
す」と、改めて言った。
「私もお会いできて光栄です。でもお願いです。どうかこの事
は内緒にして下さい。私、もう少しここにいたいの」
「分かりました。僕が見守ります」
「ありがとうございます。それでルチルさんは何を探してる
の?」
彼は深いため息ついた。
「実は我が国の王子が行方不明です。私が傍にいながら彼を見
失い、僕は勘当されました。ただ数か月後に王子は婚約式を控
えてます。だからそれまでに見つけ出したいのです」
「それで宛てはあるのですか?」
「ありません。しかし僕はこの地にいると思ってます」
彼は王子のことを語った。「好き勝手に生きてたけれど、剣を
握れば右に出るものがない」と、教えてくれた。それから暫く
して、
「では、おやすみなさい。楽しい時間に感謝します」と、彼に
挨拶して、私は静かにドアを閉めた。
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