第3章 特別報酬仕事

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私はニ十体のゾンビを廊下に正座させたが、何とも姿勢が悪 い。 「皆さん、背筋を伸ばして下さい。そこのゾンビさん。首だ け後ろを向いてますわ。前を向いて下さい」と、言うと、首 をスポッと外し向きを変えた。 「あの。外さなくても向きを変えられませんか? 気持ち悪い です。えっと、そっちのゾンビさん。眼球が一つ床に落ちまし た。すぐ着けませんと掃除機で吸い込まれます」 それから淡々と掃除のやり方を説明したのだけれど、面白い ことに彼らは真剣に聞いた、ように思えた。それからゾンビ 達を半分に分け、Aグループがパンジーと、Bグループは私 と九階へ上がった。どっちにしても見栄えは良くない。 彼らに雑巾を持たせ、窓や廊下を拭いてもらった。私が見回 ればまあまあの出来で、予想以上に進行してた。と、その 時、九階でエレベーターが止まった。ドアは確かに開閉した ものの誰も降りない。不審に思ってボタンを押せば、青白い 顔で月島さんが立ってた。 「月島さん。九階に着きましたよ」って、声を掛ければ、彼 は、「そ、そんな馬鹿な。ゾンビが廊下を雑巾がけしてた。 全く悪夢だ」と、ぶつぶつ呟いた。 「えっと。それは」って、言い掛けたけれど、私を見て安心 したのか、済まなそうにエレベーターを下りた。けれど…… 次の瞬間「オエェ~」って、口を押えた。そしてボタンを 「バンバン」叩き、慌てて下へ降りた。何とも気の毒 だったものの、ゾンビ達は、「ヒャッ、ヒャッ、ヒャッ」 と、笑った。 ところで宇宙生物と勇敢に戦う月島さんは、ゾンビが大の苦 手だった。それは後から知ったこと。悪しからず。 「そうじ~、おわりました~」と、名付けて「お掃除ゾンビ 隊」のリーダーが申し出た。 「皆さん。有難うございます。ではこれから雑巾を洗いま す」 私は彼らを洗面所へ誘導した。そして三人ずつ並ぶと私の 真似して雑巾をゴシゴシ洗ったけれど、彼らは、「ヒャッ、 ヒャッ、ヒャッ」と、余程楽しかったのだろう。面白がっ て笑った。しかしながら私は排水口を見て呆れた。と言う のも雑巾を擦るごとに彼らの皮膚と肉が、一枚、また一枚 と剥がれ手の骨が丸見えだった。 「あの。皆さん。骨が見えてますよ」 おまけに排水口が詰まって、ぶよぶよ浮いてる。 ゾンビは自分の指を高く上げると、骨の隙間から天井を覗 き込んだ。
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