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紫藤ダイア
(僕は。僕はシドウ……)
「パンジーどうしたの?」
エレベーターを降りるとロボットが動かなくなった。
「パンジー。あなたは人間の様。とても素敵よ」
「クスッ」て、笑うと、彼は私を真剣に見つめた。そして、
「ルビー。とてもキュート」と、言った。
最近よく言うのである。深い意味はないと思いつつ、男形
ロボットから言われると複雑だった。
「パンジー、歩きましょ」
私は空を見上げ駐輪場から自転車を出した。
本日の天気は快晴。初夏の風にマーガレットが優しく揺れ、
私達の心が実に癒された。ところがまたパンジーが止まり、
今度は花をじっと眺めた。そして彼の指が優しく花に触れ
れると、一輪だけ摘んだ。珍しい行動だった。
不意に、「ルビー」って、パンジーが呼んだ。振り向けば
片膝ついてマーガレットを差し出した。
「誠実さはルビーに似合ってる」
ロボットの言葉なのに、私の心は急にドキドキした。
「紳士的過ぎてロボットじゃない。どういうことだ?」
ルチルさんは不思議に思った。と同時に、あることが頭を
過った。
「そう言えば、以前ルビーさんがタオルを落した時も片膝
着いたが、あの時と全然違う」
「そう言えばそんな事があったわ」
背中からリュックを下ろし、マーガレットをそのポケット
へ挿すと彼にお礼を言った。
「パンジー、ありがとう。では仕事に行きましょ」
彼は普段と変わらず空から私達を見てた。ところが信じら
れないことが起こった。ロボットは起動してから一度も離
れたことがなかったのに、どういう訳か私の視界から消え
た。どこへ行ったのか……
パンジーは会社の屋上にいて、何か取り戻そうと必死だっ
た。
「ヒカリ、カガヤキ、ナナイロ。僕はそんな名前だった。
あと少しで思い出せそうなのに……」
さて、今日の与えられた仕事は宇宙生物退治。パンジー
のいない私は待ち合わせ場所へ一人で行った。
「おやルビーさん。ロボットがいないが遂に壊れたか?
それとも俺に降伏したか?」と、月島さんに尋ねられたけれ
ど、「どちらでもありません」って、平然と答えた。それか
ら彼の車へ乗ると、例の自然公園へ向かった。
ここは数年前から宇宙生物の最も出やすい場所に指定され、
世間知らずの王女は、以前パンジーと入った。そして恐ろし
いことに宇宙生物と出くわした。
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