いつか終わりを迎えるレクイエム

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 もう何度となく聴いている「requiem」を、まるで絞り出すように抑えながら、ビルの屋上のフェンス際で歌っている。 「なんだかおおごとですね」  話しかけると、丹野さんが楽しげに笑う。 「雨も降らせますよ。坂崎さん、気合入ってますから」 「濡れてるのに、さらに?」 「さらに。しかも極めつけは、ラストシーン」 「どうするんですか?」 「あのビルの淵から飛び降りる」 「え、ええっ!?」 「もちろん安全第一。命綱つけて、あそこのすぐ下にワンフロア下にある屋上にね」 「そ、そうですか」  安全第一と言われても、ひやりとする。 「じゃあ、あと少しなので。歌どりのシーン終わったら、監督に挨拶がてら交代しましょう」  一哉くんが祈りの形に合わせた両手を天に差し出すようにして歌い終わる。カットの声がかかり、いっせいにスタッフが次のシーン撮りの準備に動き出す。  丹野さんが私の方を見ながら監督に頭を下げている。監督の南雲タダシさんだ。シャープなフチなしメガネのインテリ風な青年で、打ち合わせの時に挨拶させてもらった新進気鋭の若手クリエイターだと紹介された。業界では注目されているらしい。  南雲さんが私の方を見て、軽く会釈する。なんにしても礼儀正しく静かな人で、声を張り上げているところも怒鳴っているところももちろん見たことがない。  ひどく無口らしく、一哉くんもあまり話さないせいで、2人が一緒だとほぼ沈黙状態になっている。それでも不思議なのは、どうやら一哉くんにうまくやっていけそうか心配した丹野さんが確認したら、お互い嫌いとかではなく、なんとなく考えていることがわかると言っていた点だ。  そういう意味では、さっきの歌録りのシーンでもスムーズには進んでいたみたいだ。  今度は雨を降らせるシーンなのか、その機材や準備で辺りが騒然としている。基本的に対外的なことは丹野さんの仕切りだから、なんとはなく所在なげに夜空を眺める。  夕焼けから夜のシーンを撮るのだから、一哉くんたちは長丁場だ。
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