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何が気に入ったんだ。まるで物扱いされているようで気分が悪い。あまり深入りしない方がいい。
2人から目をそらして目の前の作業に集中する。
「でも彼女はダメですよ」
「え、司さんの?」
「違いますが、うちのバンドに大事な人ですから」
牽制してくれていることにホッとしつつ、廣瀬さんの次の言葉に耳を疑った。
「……なーるほど、アイツのか……。じゃあなおのこと気に入りました」
「廣瀬くん」
「司さん、すみません。オレ欲しくなりました」
欲しくなりました?
完全に物扱いされていることの非常識さに愕然として廣瀬さんを思わず見てしまう。それに気づいた彼は、楽しげに手を振った。
「じゃそろそろ行きます。司さん、今度またうちらと飲みましょうよ。メジャーデビューのことなんでも聞いてくださいよ。もちろん涼さん付きでですけど」
「それは……ありがたいですけどね……」
ため息と共に司さんが仕方なさそうに首をすくめている。
「じゃ、涼さん。またね」
モテるであろう明るい笑顔で立ち去っていく。
……頭痛がしてくる。
「……一哉といい、廣瀬くんといい、涼さんも厄介な人たちに好かれますね……」
同じように頭痛があるのか、司さんがこめかみを揉みながらテーブルにつく。
「好かれたくて好かれてません……。というよりあの廣瀬さんって、ミュージシャンなんですか?」
「あー……知らなかったですか? それで余計火に油を注いだ感があったのか……」
「え、何か逆なでしたんでしょうか、私……」
「いや違います、大丈夫ですよ。彼はカサノヴァというブリットポップ系のロックバンドのリーダーですよ。同じハコでやることが多くて交流あったんですけど、半年前にカサノヴァが先にメジャーに移籍してからは飲みとかも減ってしまって」
「ライバルですか?」
「うーん、目指している音楽性が違いますからね。純粋にライバルとは違うかもしれないですが、それでも闘争心がない間柄ではないです。ただ一哉と彼……廣瀬くんは少し因縁があるというか、それとは別の意味で犬猿の仲なんですよね……」
「じゃああまり私も近づきたくないですね。しばらくは、一哉くんを刺激したくないんです」
「まあ踏ん張りどころですからね」
司さんも気づいている。
一哉くんにとって、今が一つの岐路だということに。
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