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「涼さんなら問題ないと思いますけど、廣瀬くんには少し気をつけてください」
「それはもう言われなくても。不愉快でしたから」
「あはは、すでに嫌われてるのか、廣瀬くん。相当キてる人なんで、なんというか喰われないように」
司さんの口からまさか喰われるなんて単語が飛び出すとは思わずぎょっとする。
「えっ?」
「もう女癖の悪さは昔の一哉と双璧でしたから。一哉は基本的に女の子に無関心ですけど、廣瀬くんはもう大好きなんですよ。毎日違う女の子を取っ替え引っ替え。ただこう、女の子をペットくらいにしか思ってないというか」
「はあ……」
やっぱり物扱いされている気がしたのは気のせいじゃなかったのか。男というものは、と呆れを通り越してため息が出る。
「ただ廣瀬くんの方は質が悪いというか、諦めが悪いというか」
「最悪ですね……」
「まあしばらくは涼さん、頑張って逃げ回ってください」
苦笑気味に、そしてやや楽しそうに言った司さんを恨めしげに見る。
同じメジャーという土俵に殲滅ロザリオも立つ以上、会う機会も多くなるだろうと思うと気が滅入ってくる。
そこに一哉くんが戻ってきた。
「一哉、油断したな」
司さんが笑いながら、一哉くんの肩をたたきがてら楽屋を出ていく。
「油断?」
一哉くんが回答を求めるように眉をひそめながら私を見た。
「カサノヴァのリーダーさんに会ったの」
一哉くんが一瞬にして不愉快さを露わにする。どれだけ毛嫌いしているのか分かる、嫌悪感ばりばりの表情だ。
「アイツに絶対近づくなよ」
拒絶の激しさに嫌な思い出でもあったのだろうか。
「うん、ああいうタイプ苦手だから」
安心させるように言うと、一哉くんは私の隣に座る。そして頭をこてんと肩にもたせかけてくる。珍しく少し疲れたかのような顔して、目を閉じている。
「オレ……自分の夢とか、考えたことなかったっつーか……よく、分からない」
私が問いかけたことをずっと考えてくれていた。その素直さが嬉しくて、そっと一哉くんの頭に私も頭を寄せる。
「今すぐじゃなくても、いつか見つけられるよ」
「……簡単に言うなっつーの……」
小さく呟いた一哉くんは、私の楽天さが悔しかったのか、顔を少しあげると私の首筋を拗ねたように甘噛みした。
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