メジャー始動の陰で忍び寄るもの

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 どんどんデビューへの物事は進んでいく。  坂崎さんとの打ち合わせで、一哉くんが否を言わなくなってから、司さん達とトントン拍子で決まっていった。  それは端から見ていると順調そのもののように見えたけれど、どこか迷いを捨てきれないままの一哉くんが置き去りにされているような感じもあって、私の中では不穏な空気を拭うことができなかった。  そんな状態のまま、一哉くんのファッションモデルとしての初めてのスチール撮影の日がやってきた。  朝から機嫌は決してよくない。  食欲もないのか、いつも食べているシリアルもヨーグルトも口にせず、ただグリーンスムージーだけ飲んで撮影スタジオへ向かった。  私の心配もよそに、一哉くんは普段よりも寡黙だ。  朝起きぬけのエッチなイタズラさえしないで、まるでこれから起きることに対してすごく集中しているようにも見えた。  撮影スタジオ内は、すでに忙しくスタッフが立ち働いている。そのスタジオの一角のテーブルについていた坂崎さんと司さんが手を挙げて扉から入ってきた私たちを呼んだ。見たことのない現場に私の方がドキドキしているのに、一哉くんは緊張感のそぶり一つ見せない。  誰でもなんらか緊張するはずなのに、この大空間の、たくさんの人が忙しくしている状況下で超然としているこういう度胸はすごい。むしろ臨戦体勢といった感じだ。 「フォトグラファーの羽鳥義郎です。よろしく」  撮影カメラマンを始め、メイクやスタイリスト、照明、ディレクター、プロデューサー、雑誌編集者とさまざまな職種の人たちが順に自己紹介をしていく。  初めての顔ぶれもあり、いやがおうにも場の空気は緊張感が高まっている。  坂崎さんが司さんと私、そして最後に一哉くんを紹介する。一哉くんは、ただ会釈だけして無言のままだ。  そのそっけなさに、わずかにスタジオ内の空気が落ちそうになったのを見越したのか、すかざず羽鳥さんが声をかけた。 「トーイは、基本的に無口なタイプなんだな」  一哉くんがちらりと羽鳥さんの方を見て、視線をスタジオのセットの方に向ける。司さんが場をとりもとうと声をかけようとして羽鳥さんがさらにたたみかけた。 「まあそれもまた魅力だね、楽しみだ。トーイ、オレは撮る時注文出すのキライなんだ。基本的に自分で動いてもらいたい。言ってることわかるよな?」
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