いつか終わりを迎えるレクイエム

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 一哉くんが司さんたちに披露した曲、そのまま私が同じことを思った「requiem」は、手直しが入ることもなくオリジナルのままドラマの制作側に渡された。  その評判は瞬く間に走り、直しが入ることなく一発オッケーだった。  ホッとした表情を見せる一哉くんを別にして、10月のドラマのスタートに合わせて業界内でなんとはなしに前評判が立つほどだった。  そんな嬉しいニュースに追われるようにして、番宣のためにツアーの合間を縫ってレコーディングとMV撮影が行われる。  そのため、久しぶりに東京の部屋へと戻ってきた。  残暑がじりじりと肌を焼きつける。  あいかわらずの都心の暑さは地方とは比べ物にならない。じっとりする嫌な暑さを感じながら、一哉くんと自分の荷物をいったん解いて片づける。  午後からロケに丹野さんと入れ代わって立ち会う。一哉くんはすでにロケ地入りしている。どんな内容になるのか、特に聞かなかったけど、今朝、静かに集中していた一哉くんを思い出すと、むしろ期待に震えそうになる。  ジャケットをはおり、バッグを掴んで家を出る。  久しぶりにホテル暮らしから解放された我が家は、変わらずに無機質で、箱としてただそこにあるだけだった。  それでも2人して、帰ってきたことにひどくホッとした。  ここがあるべき2人の場所なのだと。  教えられた場所は、超高層の有名建築家が手がけたという直線とガラスの張り詰めた美しさが際立つビルの屋上だった。たくさんのスタッフが動き、見守る中を縫って丹野さんの姿を見つける。  彼がじっと見つめる先に、殲滅ロザリオの姿がある。  一哉くんが両手を握り合わせて、全身でリズムをとりながら天を仰いで歌っている。  司さんや陣内さんたち他のメンバーもいつもよりは激しい動きをせずにプレイしていて、全体的に一哉くんがフロントに前面に出ている。  パーカーつきのアシンメトリーなブラックドレープカーディガンを羽織り、さらにメンズスカートを重ねている。そこから伸びた細いスキニーもショートブーツもすべてブラック。パーカーを被っているせいか、まるでローブのようだ。  一哉くんが動くたびにドレープが敬虔なローブのようにも見えて、独特の静謐感を漂わせている。  しかも、一哉くんの髪も顔も、全身濡れている。  演出なのだろうけど、見てる私としては心配になる。
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