いつか終わりを迎えるレクイエム

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 ヘアメイクからガウンを受け取った一哉くんが、楽器のメンテナンスをしているセリさんたちに声かけて、私の方に歩いてくる。 「おつかれ、一哉くん」  ガウンを羽織った一哉くんは、小さく頷くと、私の耳にこそっと囁く。 「ちょっとぬけだそ?」 「え?」 「涼に見せたい、いいとこ見つけた」 「でもそんな濡れたままじゃ風邪引くよ」 「夏だよ? 本当はガウンもいらねーってゆーのに、メイクさんうっさいから着てるだけなのに?」 「風邪ひいたら、ツアー大変だよ?」 「ちょっとだけ、ほんの10分、いーじゃん?」  手をすりあわせてお願いしてくる一哉くんに、苦笑しながら仕方ないと頷く。それに嬉しそうに笑った一哉くんは、私の手を握ると早足で歩き出す。  その足取りが軽い。そういう一つ一つの仕草で素直に嬉しいのだと分かるほどに、一哉くんと一緒に過ごしてきている。  一哉くんは屋上の撮影現場とは全く反対側の方に向かう。広大な超高層ビルだけあって、反対側に向かうほどにスタッフの姿はなくなり、屋上にそなえつけられている巨大な換気扇が整然とフェンスの柵にそって並んで唸りをあげている。  その真ん中に屋上緑化の試みなのか、庭園が広がっている。  ここのことなのだろうか。  そう思った私の予想を裏切って、一哉くんは屋上庭園を横切ってさらに屋上の奥へと向かう。  だだっ広い無機質な時間と空間とが一瞬、この世界に一哉くんと二人きりのような錯覚を起こす。  ふと屋上の出入り口らしきところに立ち止まると、その脇にある梯子の階段を登り出す。見上げていると、まるで高校生の頃の、屋上にあった給水塔の上を思い出す。  サボりたい男子高校生がよく登っていた。思わず思い出し笑いをすると、一哉くんは不思議そうに私を見下ろして手を差し出す。 「怖い?」  頭を振って梯子をのぼり、一哉くんの手につかまってよじ登る。  柵がない分、周りの景色がわっと視界に飛び込んでくる。 「寝転んでみ?」  言われて、寝転んでみる。
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