いつか終わりを迎えるレクイエム

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 さわさわと動くしなやかな指を服の上から抑えて、慌てて身体を起こす。  ガウンがずるりと一哉くんの身体から落ちて、半乾きの髪をあいかわらず楽しげな一哉くんが気だるげにかきあげる。  18歳とは思えない色気に、思わずクラクラしながら必死で自我を保つ。 「もう先行く!」  このままだとマズイ気がして、慌てて立ち上がろうとして一哉くんがぱっと私の腕をつかむ。 「ダーメ」  全身が火照る。  なんでこうも、向き合ってる私の方が恥ずかしいくらいに心臓がばくばくしているのか分からない。 「ね、涼からしてよ」  にこにこ無邪気に、だけど楽しんでる匂いを漂わせながら一哉くんが甘えた顔をする。  これは……。 「キス」 「今しなくても」 「じゃあベロチュー」 「なっ、ベロチューとか言わないでっ」 「じゃあディー、ぶっ」  完全に遊んでる一哉くんの顔を手のひらで押し返す。 「ひでぇなー」  鼻の頭をさすっている一哉くんを置いて梯子を降りようとするのに、つかまれた腕をはなしてくれない。 「マネ代理とトーイがいないの、マズイでしょ」  と言って振り返ると、一哉くんが手を月の方にかざしている。  その指先につまんでいるらしいものがキラリと月の光に反射する。  え?  ぽかんとした私においでおいでをして、一哉くんがにこっと少年らしい笑みを浮かべる。 「それ……」 「涼、左手出して」  一哉くんの元にしずしずと戻り、座って見上げるその嬉しそうな顔の前に座る。  差し出した左手の薬指にしなやかな指先が器用にリングをはめる。 「遅くなってごめん」  一粒の小さなダイヤがキラキラときらめいて、月の光に濡れている。 「わ……、すごくきれい……嬉しい」  はめた左手を空にかざして見る。  月の雫がこぼれ落ちてくるような美しさが左手の薬指で光ってる。  嬉しくて顔がゆるんでしまう。  そんな私に、一哉くんがそっと顔をよせてキスする。 「好きだよ。ホンモノはもう少し待って」  小さく頷いて、もう一度一哉くんのキスを受ける。 「私も好き。一番一哉くんが好き」  触れ合わせるだけの優しく愛しいキスを、何度も繰り返す。  左手の薬指に小さな熱を感じながら。
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