いつか終わりを迎えるレクイエム

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 内輪だけで試写的に解禁されたMVは、繊細で哀しみの糸が何本も張り詰めたような美しいものだった。  夕景から夜景へ、月が美しく照らす屋上で、雨に降られながらのモノクロームのシーンを挟みながらの映像は、一編のショートムービーを見ているみたいだった。  やはり丹野さんが言った通り、ラストシーンはトーイが背中から倒れ込むようにして屋上から飛び降りるという衝撃的なシーンだったけれど、それもまるで多重露光の海や街の映像とともに幻想的なものに仕上がっていた。  試写室の前の席の方で深く腰かけて自分のMVを眺めていた一哉くんの目は、いつになく真剣だ。司さんたちが真剣なのはいつものことだけど、一哉くんがきちんと自分の仕事に向き合っているのに、司さんたちがかすかに驚いているくらい真摯な姿勢で見ている。  時折、隣に座って出来を見ている南雲監督と言葉を交わしている。  演出や演技について話をしているらしい。たまに2人で小さく肩を震わせて笑っていることもあって、お互いキライじゃないといっていた意味がわかる。  試写が終わると、南雲監督が軽く皆に感謝の言葉を伝えた。 「で、一哉。言えよ」  終わったかと思った直後、南雲監督が軽くぼけっとしていたらしい一哉くんに声をかける。 「は?」 「主役だろ」 「……オレこういうの苦手なんだっつーの」  いつのまにか2人が下の名前で呼び合っている。  仕方ないとあきらめた一哉くんがその場で立ち上がって、後ろの司さんたちやスタッフの方を振り返る。 「皆の協力があったからできた。ありがと」  小さく頭を下げる。 「それから、坂崎さん、丹野さん。迷惑かけてばっかでごめん。見捨てないでくれてありがとうございます」  深く頭を下げた一哉くんに、坂崎さんが軽く目を見開き、丹野さんがふいに腕で顔を覆う。 「トーイが、トーイが……」  男泣きしてる丹野さんに、室内から軽く笑いが漏れ、坂崎さんが呆れたように苦笑している。
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