いつか終わりを迎えるレクイエム

14/23
前へ
/171ページ
次へ
 思わず凝視しすぎていたのか、1人の男性編集者が顔をあげて私の方をみると、副編集長らしき人に耳打ちする。  場を折ってしまったなと気まずく思いながら会釈すると、むしろ彼は私の方に近づいてくる。おもったより若い。 「挨拶が遅れました。講栄社の『mode』の副編集長やってる…あれ?」  早口に気圧されつつ名刺を受け取った私に、彼が無精髭を撫でつつ首をかしげる。 「もしかして高梨?」 「え?」 「やっぱ高梨だ! オレだよ、神崎ゼミの」 「あー、齋藤くん!」 「うわーまじ、こんなとこで。うわー、オレすっげえカッコなのに、こんなん高梨に見られたくなかったわー」  顔をわずかに赤くして、齋藤くんが頭を隠すようにしゃがみこむ。  大学3年生からのゼミで2年間一緒に過ごしたゼミ仲間だ。かつての面影は残ってるものの、だいぶ大人びている。 「齋藤くん、ほら部下たちがびっくりしてるよ」  トントンと肩を叩くと、齋藤くんは学生の頃と同じはにかむように笑うと立ち上がる。 「まさかこんなとこで会うなんて、思ってもみなかったわ……何、勤めてたの商社じゃなかったっけ?」 「辞めたの」 「まじで? だって大手だったろ?」 「うん、いろいろと、ね。ほら積もる話は別にして、改めて、殲滅ロザリオのマネージャー代理やってます」 「悪い、思わず舞い上がっちまった。よろしく。あ、もう一回オレの名刺貸して」  手を差し出されてもらったばかりの名刺を返すと、その裏にさらさらと携帯番号を書く。 「これ、プライベートの。連絡くれよ、近いうち飲もう。なんだったら他のゼミ仲間の奴誘ってもいいしさ」  屈託なく笑って、齋藤くんがポンっと私の頭に掌をのせる。  その仕草に一気に学生時代が蘇る。  齋藤くんはゼミ生の中でも比較的仲がよく、楽しい男友達だった。キレ者で、独特の持論をもつ人物として教授からも一目置かれる学生だった。確かに思い出せば、学生の頃からメディア志向が高かった。  でもまさかすでに副編集長の位置にいるなんて。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

228人が本棚に入れています
本棚に追加