いつか終わりを迎えるレクイエム

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 空間という空間が次元を歪めて、殲滅ロザリオの支配する世界になっている。  まるで音が液体なら、その中で溺れてしまいそうな。  呼吸すら忘れて、テンションがあがっていくその熱とビリビリと震動する音圧に翻弄される。  汗ばんで体を大きくリズムにのせながら、陣さんが激しいドラムワークを展開させて、ギタリストのHさんがギターを超絶的な指づかいでかき鳴らす。それを支えるセリさんのベースの渋さがまるで螺旋のようにトーイの歌を絡めていく。  この調和の、たった一音でいい。  自我を破壊してもいいと思えるような、隙間なく、その殲滅ロザリオとトーイの音にはまる一瞬。  まるで生と死のはざまに放り込まれたような浮遊感。  酩酊するドラッグに、すべての意識が過剰なエクスタシーとアドレナリンに侵食されつくしていく。  忘我の境地で、なにものかの支配下に入ることの快楽は、人間ではない。動物の本能を刺激する。  魂も体もすべてもぎとられて、リアルの世界に戻った視線の先にガイコツマイクを握りしめて、体を折り曲げるようにして歌う一哉くんの姿がある。  ロックの中でもヘヴィメタとかラウド系の雰囲気だ。  こういう歌い方も試したいと言った一哉くんの提案だった。曲によってポップでもオルタナティブでもエモでもさまざまなジャンルの要素をとりいれていきたいのだという。  部分的に甘やかに歌い上げながら、変調してシャウトする姿は、まるで音楽とトーイがひとつのもののように錯覚する。  そのグルーヴとリズムの刻み方にライブ客のフリも激しく、ライブハウスの空間が揺れている。  トーイの声が体の中を突き抜けて、そのままパルスと共に体のすべてに張り巡らされていくような、そんな毒性の強さ。まるで無意識のうちに頭の芯が侵されて、逃げられないように囚われている。ひどく蠱惑的で、大音量に響く殲滅ロザリオのサウンドで人間という物体の箱の中身がいっぱいになる。  魂の奥底に爪痕が残る。
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