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時計を受けとった一哉くんが、ばふっと体をベッドに沈み込ませる。
「起きないから……」
「誰のせーだよ……。あーくそ……」
自暴自棄に近いため息に、ちょっと嫌な予感がする。慌ててベッドを降りようとすると、一哉くんが腕を掴んで引き止めた。
「勃っちまったの、どーしてくれんの」
銀色の髪をかきあげて、下から私を見上げた一哉くんがニヤリと笑う。狡猾そうな眼差しが溜まらなく野性味がかって、一瞬18歳という年齢を忘れさせた。
「お、遅れるってば」
有無を言わせず、一哉くんに強引にベッドの中に引きずり込まれる。
背後から抱きしめられると、太もも辺りに硬い感触が当たってドキリとした。こちらの気分を煽るようにすりつけてくるような仕草に、自制心と理性が揺らいで無意識にこくりと喉が鳴る。
身体をわずかに起こした一哉くんの濡れた唇がすばやく私の瞼をなぞり、熱をもった舌が私の唇を割って入ってくる。いつもの甘いキスじゃない。意地悪で、私をあっという間に情欲の炎の中に突き落とすディープキスだ。
どうせいつも私が一哉くんにすぐ骨抜きにされると分かっている、その自信の大きさが悔しい。欲しいのに、私が求める気配を見せればすぐにどこ吹く風で身を引く焦れったさに拗ねると、一哉くんの瞳が欲情にぐっと深く潤んで光った。
その光は、ライブで歌う一哉くんの目と重なる。この目になった一哉くんはどこまでも貪欲で、飢えた獣のように飽き足らないように私を貪る。
「時間……」
どうしよう。
一片の理性が頑なに享楽の世界へ流されるのを拒んでいる。
それをあえて無視して、一哉くんは深く唇を重ねて、私の胸の突端に指先を這わせた。その瞬間、一哉くんのしなやかな指先から熱が放たれているかのように疼痛が走り、動悸が激しくなるように息があがっていく。新鮮な空気を求めるように喘ぐと、一哉くんがさらに焦らすように、私の腰から脇を指先で弄び、愛撫し、うつぶせた背中に濡れた舌を這わせた。
それだけでもう子宮の底が一哉くんを欲して、すがるように一哉くんの名前を呼ぶ。それに呼応するかのように一哉くんが性急に入ってくる。
仕事に、いかせないと。
そんな想いが白い世界に消し炭のように吹き飛んで、一瞬にして波に攫われていく。 一哉くんの腕に強く抱きしめられるその眼裏に、ふと太陽を覆った薄い雲が見えたような気がした。
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