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メジャー始動の陰で忍び寄るもの
遅刻だと言うのに一向に急ごうとしない一哉くんを必死で急かして、打ち合わせ場所でもあるライブハウスのミーティングスペースに飛び込む。
会社を退職いてから、一時的に殲滅ロザリオのアシスタントマネージャーとして動いて1ヶ月。
殲滅ロザリオは正式にメジャーレーベルに移ることが決まり、司さんを始めメンバーは、今後バンドをどう売り出していくのか、どう見せていくか、コンセプトや方向性を何度もレコード会社の人たちと打ち合わせを重ねてきていた。
司さんは医者業の後継者は見つかったもののリーダーとしてとにかく忙しく、今は私がほぼ事務的な仕事を任せられていた。あまり詳しいことを知らなくてもできる業務で、会社で培ってきたことでまかなえるからだいぶ助かっている。
今、殲滅ロザリオはすごく重要な時期だった。
インディーズからメジャーへ移るに際して、レコード会社側から出された意向は、バンドとしてもっとダークなイメージをつけたいということらしい。司さんや陣さんはヴィジュアル面にはそこまでこだわりがなく、プロに任せるという風だ。セリさんやHさんは多少意見を持っているが、それは話し合いの中で解決できるレベル。
実は一哉くんがその意向に一番難色を示していて、なかなか話が前に進まない。
「遅い、一哉」
ミーティングスペースに、一哉くんをメンバーの間に押し込みながら謝る。
さすがの司さんも、一声は苦みの交じった言葉だった。
当然、司さん以下みんな揃っている。
レコード会社との打ち合わせに遅刻するなんて、社会人としてはなってないことこの上ない。
それも自分の責任の範囲になってくる。
「ごめんなさい!」
「たかが20分じゃん」
「遅刻は遅刻っちゅーねん。涼さん甘やかしすぎやろ」
「本当にすみません」
何度も頭をさげながらテーブルの端につく。
一哉くんはむすっとした顔でポケットに手を突っ込んだまま司さんの隣に座った。
自分の意向に染まないことを話しあうのだから気が進まないのは分かっているのだけれど。
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