メジャー始動の陰で忍び寄るもの

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 何よりも一番は一哉くんの意志だ。  司さんが軽くホッと息をついた。  正直、なんだかすごいことになっていっている気がする。私には、何がなんだか分からない世界だ。  もちろん私個人の気持ちを優先すれば、恋人としての不安な部分がないわけじゃない。でもそれ以上に、坂崎さん達の熱に浮かされたような饒舌さにおされていた。それが時に大きな力になることは、前職で嫌というほど知っている。 「特別何かをしてもらう必要はありません。等身大の18歳のまま、答えたければ答えて、答えたくなければ答えなくてかまいません。むしろ話なんてしなくてかまいませんよ。それがそのままトーイの魅力になる。ただ……ヴィジュアル面では、アートディレクターやらカメラマンやら、そういった人たちからいろいろと注文は出るでしょう。トーイのライブパフォーマンスを見ていると、無意識かは知れませんが、人を魅せることを知っている。その延長線上の話ですから、すぐ慣れます」  嬉しそうな坂崎さんと違い、一哉くんはどこか納得しきれないように俯いたままだ。 いきなりモデルだのファッションだの言われれば、音楽だけ考えてきた一哉くんには面食らう内容かもしれない。  でも司さんたちは口を挟まない。ただ一哉くんに判断を任せている。  心の底から納得できているのか、一抹の不安を覚えてはいたけれど。 「実はですね、リーダーの司さんにもいろいろとお願いしたいことが……」  一哉くんの了解をとりつけた坂崎さんは、次の議題へと話を移していた。  今の私には、一体どんなことになるのか、本当に想像がつかなかった。  2時間もの打ち合わせが終わり、坂崎さんが帰っていく。  プロモーションのためとは言え、インディーズの時との違いに戸惑っているのは一哉くんだけじゃなかったらしい。陣さんやセリさん、Hさんもなんとなく疲れているようだ。  むしろ司さんだけが淡々と仕事をこなしている。さすが本業が医者だっただけある。 「18時からインタビューが入る。とりあえずまたここに集合ということで」  てきぱきと司さんの指示に従い、私は仕事をこなして、同時に用意しておいた清涼ドリンクを配る。
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