第1章

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 しかしこれは死にたくても死ねないことを意味する。電源供給をストップすれば一 時的にシャットダウンすることは可能だが、電源を入れれば再び意識は復活する。果 たしてそれは幸せなことなのだろうか。  モーリスには悩んでいる時間はなかった。次々に重症患者が運ばれてくるからだ。 モーリスは目の前に患者の治療に専念することにした。  ジーンは南極の地下千メートルにあるネメシス本部にいた。今年で六十七歳になっ ていたが、そのカリスマ性と体力はまったく衰えてはいなかった。ジーンはテレビの ニュースを見て呟いた。「第一フェーズ完了」ジーンはにやりと口の端を緩めた。 6  西暦二〇一七年六月二十二日  原子炉が核爆発を起こすというだけでなく、それが世界のすべての原子炉で同時に 発生するという前代未聞のテロ行為に世界は大混乱に陥っていた。マスコミは二十四 時間体制で報道を続けている。原子炉を保有していない国も安心は出来なかった。い つ原爆を持ったテロリストがやってくるかわからないからだ。  時間が経つに連れ、各国が自国以外にも多数の国がテロ被害を受けていることがわ かった。テロの首謀者は当初はIS(イスラミックステート)が疑われていたが、ISか らの犯行声明が行われていないことから、IS以外の組織の関与が疑われていた。  ISはパキスタン、イラン、トルコなどから核ミサイルの技術者を大量に誘拐し、核 弾頭を有する大陸間弾道ミサイル実用化の研究を行わせていた。すでに大陸間弾道ミ サイルと中距離ミサイルも完成させていたが、アメリカの監視衛生の目を交わす為に 地下工場で数百発のミサイル製造と百機の発射台建造を行っていた。  今回の同時多発原子炉爆破テロが誰の仕業によるものなのかISにもわかっていなか ったが、現状を好転させる為の絶好のチャンスなのは間違いない。  ISのミサイル攻撃責任者は叫ぶように言った。「いずれここは空爆されて跡形もな くなる。ありったけのミサイルをぶちかますんだ!アッラーは偉大なり!」  ISのミサイル攻撃担当者はネメシスの工作員・アリーだった。アリーは地下に隠し てあったミサイル発射台とミサイルを全て地上に出すと、発射台にミサイルを固定す る作業を開始した。発射台は百機あるので、一度に多数のミサイルを発射出来る。  彼は近隣の中東諸国に中距離核ミサイルを十発づつ、アメリカ・イギリス・フラン
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