第1章

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「全て予定通りです」 「よし、第二フェーズ完了だな。次はいよいよ第三フェーズだ。シシュフォスはいつ 衝突する予定だ?」 「GMTで一周間後の午後五時頃です」 「よし。これでついに人類は滅亡することになる……!」  ジーンは計画の完遂が目前に迫っていることに、静かに興奮していた。  ネメシスは一九六九年にアポロ計画の裏で、小惑星シシュフォスに向けてメメン ト・モリを発射していた。二十年後、シシュフォスに着陸することに成功したメメン ト・モリは原爆の威力や角度を注意深く調整して爆発させた。原爆の爆発によりシシ ュフォスの公転軌道は太陽側へわずかに変化した。このわずかな軌道変化により、数 十年後に地球に激突することになるのだ。  同時多発原子炉爆破テロが発生する前に、アメリカのアレシボ天文台はシシュフォ スの存在を捉えていた。その軌道を計算するとトリノスケールは十と最悪の状況だっ た。  トリノスケールとは小惑星などが地球に衝突する確率と衝突した際の被害状況を表 す尺度のことだ。トリノスケールは一から十まであるが、トリノスケール十は衝突確 率百パーセント、衝突後の災害状況は全地球的な気候変動が発生し、文明がまるごと 消滅するといった、もっとも深刻な状況だった。  かと言って、この情報をマスコミに知らせたところでシシュフォスの軌道が変わる わけでもなく、かえって民衆のパニックを煽動するだけだ。現時点では報道規制をす ることとなった。テレビでシシュフォスの件が報道されないところを見ると他国の天 文台も同様の判断をしたのだろう。  アメリカはシシュフォスの軌道変更を試みていたが、すでにシシュフォスが地球に 接近している為、核ミサイルがシシュフォスに命中しても軌道を変更することは出来 なかった。  アメリカのマルティネスは、同時多発原子炉爆破テロと核ミサイル攻撃の連鎖、そ して隕石衝突への対応の為、高度で迅速な判断を連続して迫られていた。ロシアと中 国にホットラインを繋ごうとしたが、相手から拒否された。  マスコミを使ってロシアと中国に核ミサイルが発射されたのは誤射であると伝えた が、もはやまったく意味がなかった。その間にも、両国から核ミサイルが次々にアメ リカ本土に着弾していた。PAC-3で迎撃出来たミサイルもあったが、迎撃地点の近辺 には放射能物質が大量に降り注いでいた。  マルティネスは補佐官に訊いた。
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