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――三月初頭。
島嶼部に位置するカオス学園に特有の、遮るもののない身を貫く寒風は、幾分その鋭利さを潜め、外に出る者へ極めて比喩的に、春の到来を予感させていた。遅々としてはいたが、春の花はその蕾を人知れず膨らませ、来たる開花の時へ着実に支度を整えている。
しかしながらその日某所――教育施設外の、とある会議室に集った男女が、その訪れを肌で感じることはない。
天井が低く、見た目以上の閉塞感がのしかかる室内は、対魔導加工のなされた分厚い遮光カーテンにより、外部からの採光を一切絶たれている。
勿論、天然光と比べ遜色のない照度で光を注ぐシーリング・ライトで手元の細かな文字を見るのにも苦労はしない。
空調設備は静かに、しかし絶えず新鮮で清潔な空気を室内へ提供し続けている。快適さ、という観点でのみ称するのであれば、未だ肌寒い外とは比較するまでもない。
現在この室内で行われていたのは会議――学園を統括し、全権を三分する三つの大組織、理事会・生徒会・抑政会の代表による年度末の定例会議である。
参加者はそれぞれの会の代表。すなわち理事長・南風原秋樂。生徒会長・戦刃克己。総会長・叉田毘兇夜の三人。加えてそれぞれその補佐業務に当たる役職の者を同席させ、合わせて六名。
戦力という単位で評するのならいずれも何かしらの価値を有し、合計すれば恐らく学内最強と称しても差し支えのないメンバーである彼らは、みな一様に普段の恰好からは離れ、学園支給のスーツ姿だ。
ドレス・コード、というわけではない。能力者研究機関を母体とするこの学園の風土は非常に自由だ。組織化とその肥大化につれ、効率的で円滑な組織運営を目的に形式化、官僚機構の発達こそ見られるものの、服装面でそれが影を落とすことは、にわかには考えづらい。
つまり彼らは一様に、この会合の重要性を理解していた、ということだ。同じ職務であるとはいえ、日ごろの姿ではふさわしくない――その姿勢をしてドレス・コード、服飾規定の端緒と言えばそれまでだが――という考え。彼らの双肩にかかる義務感が、この気の滅入るような統一感となって、目に見える形を取ったのであった。
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