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 とは言えそれも無理からぬことだ。年度末の会議というのは、他と異なり、特別な意味を有する。  四月初頭に行われる全学合同の能力強度検査。そして二月の学年末考査。最低限のセーフティ・ネットこそあれ、これら二つにより定められる絶対基準により、学園に籍を置く約三万人の生活費が算定され、来年度の予算に人件費という形で計上される。万が一の不備、不正も許されない。  この会議は、すなわちそんな人件費も含めた、来年度の予算に関する、理事会と生徒会、抑政会の意見のすり合わせが主要な目的の一つであった。理事会案を両会の質疑や意見、調整によって練り直し、よりよい案へと止揚させる。  さらにそれを理事会で調整し、次年度の両会に正式に予算という形で支給する。その額は中小国家の国家予算に匹敵する。必然、日ごろ奔放な彼らであれ、恐縮せざるを得ない。  ――と。そう説明すれば相応に困難なものに思われるが、しかしこの会議自体は極めて穏当に、かつ形式的に終始してきた。  今は、そして来年度もまた理事会主導による中長期方針のちょうど中心に位置している。両会の主な仕事は田舎の民芸品のようにひたすらの首肯。成績変動に基づく人件費の変動こそあれ、それも方針策定時に予想された変数から逸脱するほどではない。  故に活発な発議は、なされる余地すら存在しない。それが六者の共通見解のはずで、会議の主催者にして実質上の経営者――南風原秋樂には会議中にも関わらず、軽口を叩く余裕すらあった。  「――いやはや。ここまで順調に話し合いが進むと、要らぬ欲の一つでもかきたくなるね。そう思わないかね、諸君?」  「はぁ、欲。ですか」  ちょうど皆が手元の水分で口や喉を湿す頃合いに、いち早く言葉を返すのは、生徒会長の補佐として同席する生徒会副会長・瀬尾野真昼。  彼女は従的な立場として、生来寡黙な生徒会長の代わりに、この会議中もっぱら生徒会側の意見を主張しており、理事長の次に発言量が多かった。  だからその返答もいささか投げやりで、疲労も色濃かったが、委細構わず理事長は指を組み替え、滔々と語る。  「そう。我ながら完璧主義者というか、潔癖症でね。何、こうなれば帰りの鉄道の時間に合わせ、会議の終了時間を調整してしまおうか、と思ってね。そうすれば、鉄道会社の者にも、無用な迷惑をかけずに済むだろう?」
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