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「……それ、本気でできると思っているんですか?」
「試算してみようか? ああ、でも会議中は能力の使用厳禁だったね。失念していた」
わざとらしく含み笑う南風原に対し、瀬尾野は反射的に嘘つけ――と言い出したくなる衝動をこらえる。人を小馬鹿にしたような彼の振る舞いに、いちいち腹を立てていたら思う壺だ。
そうして生まれた空隙に何を囁かれるか分からない。もといそんな詐欺師めいた所行、理事長がする理由がないはずなのだが、何かと噂の絶えない存在だ。眉にどれほど唾をつけてもなお足ることはない。
「心配りは不要だ。理事長」
瀬尾野の中でそんな男の隣に平然と腰かけられる副理事長への支持率が微増したところへ、不意に低く、芯のある声が響いた。彼女はその声のする方、自らのすぐ隣へ、わずかな驚愕を伴い、目をやった。
生徒会長・戦刃克己は腕を組み、鋭い瞳で理事長を見ていた。彼はその職務に相応しい、学園最強と目された生徒である。文字通りの克己心による賜物、最高峰の精強さのみならず、明晰な頭脳を併せ持つ。
だからこそ今まで極力沈黙を守り続けていたのも、彼が愚鈍だからでは決してない。事実、戦刃の発言に、流石の南風原も肩をすくめる。戦刃克己の発言、それ自体の意味を、彼は十二分に理解ができていた。
「何、軽い冗談さ。ほんの軽い、ね。だからそうすごまないでくれたまえよ。あらぬ罪を自白してしまいそうだ」
悪びれもせずのたまう、その毛ほども重みのない発言に、戦刃は眉根を微塵も顰めず、粛々と返す。
「他意はない。もとい、真に心配りなど、俺は求めていない。それだけだ」
「ほう。その心は?」
「俺と、瀬尾野。そして叉田毘は、校舎まで走って帰る」
「いっくん!?」
「私も!?」
名指しをされた二人が慌てて異議を申し立てる。
特に先ほどから書類を見て、同席する事務長・恭箜小華と何かしらを話し合っていた叉田毘からしてみれば晴天の霹靂だ。思わず椅子を倒すほどの勢いで立ち上がる。
「当然だ。恭箜はまだハード・ワークに適した年齢ではない」
「問題はそこじゃねぇよこの筋肉馬鹿! 馬鹿!」
叉田毘の懸命の叫びも、戦刃に届くことはない。では問題はどこに? と言わんがばかりに首をかしげている。
会議は中断。しばし共同で、瀬尾野と叉田毘は戦刃の翻意に専念することと相成った。
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