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 「それで、叉田毘総会長」  ようやく生徒会長が二人の必死の説得に折れ、あとで叉田毘が戦刃のベンチプレスに付き合うということで三者が合意した、というタイミングで、不意に南風原が、叉田毘へと水を向けた。  「あん? ……なんだよ理事長」  「君、何か言いたいことがあるんじゃないのかね?」  「能力使うのはルール違反じゃないのかよ?」  「そんなもの、使わずともね。君もそうだし、何より恭箜君が雄弁に物語ってくれているとも」  引き合いに出された恭箜が、慌ててかぶりを振る。それは動揺してますよ、と言っているようなものだ。とは言え、ここで不自然でない程度に平然を装えるような者など、この学園広しと言えど希少である。  観念した、とばかりに大きな溜息を一つ吐き、叉田毘は不揃いに切ったウルフ・ヘアをガリガリと掻いた。  「本当は、この会議が終わった後、内々に理事長に具申するつもりだったんだが――仕方ねぇ。おい、ハル」  「……あ、え、はい!」  ハル、と愛称で呼ばれた恭箜が、弾かれたように、自らの隣に置いていた鞄を漁り、ファイルを取り出す。  恭箜自身と叉田毘以外の四者が思い思いにその姿を見やる中、更に彼は、ファイルから数枚綴りの紙を取り出し、施設管理者である南風原へ手渡す。  「ふむ。ああ、なるほど。確か――」  言いながら彼は、外套から一台の小さな機械を取り出す。それは書画カメラ。平面上の物体を映像信号へ変換する装置である。  そして手元のリモコンを操作し、スクリーンとプロジェクタを用意。ケーブルを繋げ、映像出力の準備を手早く進めていく。  「……なんで理事長は、都合よくそんなものを、持っているんですかー?」  「理事長だから?」  総員を代表した瀬尾野の問いに、理事長の隣に腰かけていた副理事長・長月が短く答える。うむ、とその答えに戦刃が重々しく頷いた。  「円滑な学園運営のため、常に準備を怠らず、予想外の事態にも、第四の壁を超えて対応する。まさに理事長の鑑」  「な、なるほど……!」  恭箜が戦刃の言葉に、疑問を微塵も抱かずに瞳を輝かせ、身体をゆらゆらと動かす。どうやら感激を体現したいようだった。  「実はお前ら、すげー馬鹿なんじゃないのか?」  「……多分、それは言ってはいけないことだと思うよー?」  真偽のほどは、定かではない。
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