支えたいのに

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「ミスはミスだけど、ちょっと今日気づいたことを伝えておきたくて。お互い頑張ろう、原田くん。そして、今回のミスは」 「次で取り戻す、ですよね」 「分かってるじゃない」 可愛くて可愛くて。 歳上なのに、本気で抱きしめたいと思った。 こんなに見ててくれる人なら、オレはどんなことだって頑張れる。 「そろそろ戻ろっか」 促されてコーヒーのコップを、オレは強引に先輩から奪って捨てに行った。 でないと、本当に高梨先輩を抱きしめて、ありがとうございます、って叫んでしまいそうだった。 手の内のコップにうっすらついた高梨先輩のルージュさえも、 今はただドキドキしてしまうほど、今のオレは高梨先輩でいっぱいだった。 「なあなあ、最近の高梨ヤバくね?」 「あ、お前も? なんつうかさあ、色気と透明感っつうの? ふるいつきたくなるっつうかさあ…」 男子トイレで、別チームの小室先輩たちが盛り上がっている。 それが高梨先輩のことだと思うと、一気に焦りと不快感がせりあがってきた。 「仕事の鬼にも、ついに春が来たんじゃないの?」 「あんなに雰囲気変わるもんかあ、女って」 「変わる変わる。つき合う男次第で相当変わるって」 最近、先輩に彼氏ができたのでは。 という噂がまことしやかに流れている。 高梨先輩を昔から狙っていると公言している小室先輩がそう言うのだから、周りもその言葉にのせられて、そういう目で見るようになっている。 実際、オレの目から見ても、先輩の雰囲気が少し和んだという気はしていた。 一時期は、辛そうな表情を見せることが…たぶんオレにしか分からなかったと思うけれど、多かったゆえに、個人的にはすごくホッとしてる。 でもそれが男がらみとなるなら話は違う。 本当に先輩に彼氏ができたんだろうか。 そりゃ先輩ならそういう機会はたくさんあるだろう。 仕事もできて美人で、優しさと厳しさを持ち合わせていて。 オレは高梨先輩のそばで仕事をしながら、必死で先輩に男の痕跡を探していた。 身近にいるほど、見てもらえない。 佐原が言っていた言葉が、今さらガラスの破片みたいにちくちく刺してきていた。 だから、まさかあんなものを見てしまうなんて。
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