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支えたいのに
「もう少し指導が必要そうだ。あそこでフォロー入れてなかったら、今回の商談の行き先、ちょっと不透明だったな」
矢上課長の叱責がようやくおさまりかけていた。
オレのミスだった。
矢上課長と高梨先輩、そして新人のオレの3人で某メーカーにプレゼンに出かけた。
そのプレゼンは、オレが初めてプレゼンデビューとして話をすることに決まり、
質疑応答も含めかなり気合いを入れていた。
なのに、資料のうち、比較先に選んだ某企業が、まさにプレゼン先の企業の過去のもので、如実に数字の比較になったところを、プレゼン先から指摘されてしまった。
それをうまくフォローし、逆にその数字を活かしてプレゼンをまとめてくれたのが高梨先輩だった。
ただ、矢上課長の渋面は恐ろしく…。
「原田。イージーミスすぎたな、今回は。いい勉強になっただろう。うまく巻き返してくれた高梨に感謝しとけよ」
「はい、申し訳ありませんでした」
「私からも、指導とチェック不足、申し訳ありませんでした」
2人して矢上課長に頭を下げて、デスクに戻る。
その最中、高梨先輩がオレをカフェルームに誘った。
「はい、コーヒー、砂糖入りだったよね」
「すいません…」
社内の一角にある自動販売機コーナー兼リラックススポットに鳴っているカフェルーム。
実は会社からの眺望がよく、けっこう多くの人が利用しているところだ。
オレは高梨先輩に誘われるまま、のこのことそこについてきていた。
「ああいうミスだってあるよ。でも私がすごいって思ったのはね」
缶コーヒーを渡しながら高梨先輩は、にこりと笑った。
「原田くんの声」
「声、っすか…?」
「原田くんの声って、よく通るのよね。きちんと張ったら、きっと皆注目してしまうくらい通ると思う。それ、大事にしてね。プレゼンって、演出も大事な要素だから」
今まで陸上をやっていた。
俊足を買われたことはあっても、声を買われる、なんて初めてだった。
ぽかんとしたオレに、高梨先輩はふわりと笑った。
思わずどきんとするほど、柔らかい笑み。
「せ、先輩…」
「声って、自信をもって話すかどうかで印象違うじゃない? でもそれは訓練でできることなの。でも原田くんの声は、自信をもつのはもちろんだけど、それ以上に、人の耳を打つわ。それって一つのタレントよね」
微笑みながら長所をほめてくれる高梨先輩。
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