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その日は雨が降っていた。
むせかえる雨の匂いが辺りを包む。
雨は嫌いじゃない。
硝煙の匂いも鉄臭い血の匂いも洗い流してくれる。
でも。雨は嫌いだ。
打ち付ける雨は冷たいし。
雨の独特な匂いが鼻につく。
昼頃から降り続く雨が勢いを増す中。
俺は一丁の拳銃だけを持って彼女の元へと向かった。
彼女が死を望むのなら。
俺の手で殺す。
他の誰にも殺させはしない。
彼女の元に着くと丁度彼女が経営している花屋の後片付けをしている所だった。
彼女は雨に打たれびしょ濡れになった俺を見るといつものように笑う。
また、いつものように「仕方のない人ね」そう笑ったのだろう。
けれど、彼女の口から出た言葉は違った。
「貴方だけは殺せなかったの」
彼女は少し悲しそうに俺を見て笑っていた。
「逃げないのか」
彼女は少し驚いた顔をしてまた笑う。
「殺されるなら貴方がいいわ」
あぁ。希望通り俺の手で・・・・・
勢いを増した雨が都合よく発砲音をかき消す。
彼女は最後の最後まで笑っていた。
むせかえる雨の匂い。
何度も嗅いだ硝煙の臭いと鉄臭い血の匂い。
目の前には彼女の死体が一つ。
いつまでも笑っていた。
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