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綾華が生まれたその日、清澤のお屋敷は大騒ぎだった。
遺伝子解析の結果、誕生した赤子の推定額が一億円だったのだから当然だろう。私はその頃、産声を上げている赤ちゃんに対する親たちの第一声が「いくらだ?」であることの残酷さを知らなかったから、推定額二千万である自分との格差にただただ絶望するだけであったのだ。
ベッドに横たわる私を、淡い橙色の光が包んでいる。いつのまにか眠っていたらしく、瞼を上げると蛍光灯の光が視界を眩ませて、一瞬ここがどこなのか分からなくなる。
枕元に松方さんが残したらしい書置きがあった。薬局のレシートの裏に、「また来るよ」と社会人らしい綺麗な字で書かれている。
気だるい身体を引きずって風呂に行き、シャワーを浴びる。熱い液体が私の表面を流れていくと、行為の残骸がぱらぱらと零れ落ちていくような気がして震える。タッチパネルでお湯の温度を上げても止まらなくて、私は分け与えられた熱を逃さないように身を屈めた。
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