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嘘だろう?僕が愛しているのは死んだ彼女だけだ。
否定をする僕の変わりに、僕の目が涙を流した。
あれ?なんで僕、泣いているんだろう。
その時、家の片隅でカサカサと音がした。
何か、居る。僕は警戒する。
カサカサ、カサカサ、カサカサカサカサ・・・
動物?
僕は音のするほうを見た。天井だ。
「うわっ!」
僕は思わず尻餅をついた。
なんと、あの女が、天井をカサカサと這いずっていたのだ。ゴキブリのように。
僕は恐ろしさは感じなかった。
「おかえり。どこ行ってたんだ?心配したんだよ?」
僕は女に微笑んだ。
女はどうやら、口にした物の習性を会得するらしい。
ゴキブリだった女はしばらくすると、元の空っぽの女に戻っていた。
捕食すると、どうやら腐敗が一時的に止まるらしい。
僕は彼女に側に居て欲しかった。
だから彼女にエサを与え続けた。
ネズミの時はさすがにヤバかった。
木をかじる彼女を何とか説得して、拾ってきた木切れをかじらせたのだ。
そこで僕は良いアイディアが浮かんだのだ。
だから、職場で僕にかねてより気のある、後輩女子社員の綾乃さんを家に招くことにしたのだ。
彼女に捕食させるために。
「待ってて。君を完全体にしてあげるから。」
そう彼女に言うと、意思を持たないはずの彼女が僕に近づいてきた。
僕は驚きつつも嬉しくなった。彼女に僕の想いが通じたのか。
「おいで」
僕は大きく手を広げ、彼女を包もうとした。それと同時に彼女が素早く動いて僕の腕の中に飛び込んできて、喉元に噛み付き食いちぎった。すでに僕はもう声を出すことが出来ない。
そうか、僕も捕食対象だったんだっけ。
あくる日、男物のスーツを着た女がある会社を訪ねた。
「あの、どなたですか?」
若い女性社員がたずねた。
「やだなあ、綾乃さん、僕だよ、僕。」
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