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女性はしばらく黙って、少年を見ていたが、何をおもったのだろうか…。
少年の両脇に手を差し込んで、空中に抱き上げた。
「私はね、裕福で、家も広い。でも私の家には女中さん(昔のお手伝いさんのこと)がいないの。私のご先祖様にひどい人がいたらしくてね、今も村人は私の一族を憎んで、屋敷には近寄らないのよ」
抱き上げられている少年は、女性の言いたいことの意味をはかりかねて、首をかしげた。
「先月、唯一の肉親の父上も亡くしたわ。今の私はひとりぼっちなの」
女性は微笑し、目を伏せた。
「孤独の理由は違うわ。でも、ひとりぼっちなのはおんなじだね。あなたなら私とわかりあえるかしら?――だからね…」
女性は少年を馬の上に乗せると、馬の手綱を片手に歩き出した。少年の体は馬が歩くたびに上下に揺れる。
「私のところにあなたをさらおうかな。あなたもその方が良いでしょう?話し相手がいるのは楽しいわよ、きっと」
女性は心の底から楽しそうに笑う。
このときの少年には何が彼女を楽しくさせるのか分からなかった。
でも、体が内から温まっていくような気がした。
「私の名前は、朱雀(スザク)よ」
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