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いつものように学校からの帰り道を僕が歩いている時、普段はない“あるもの”がそこにはあった。
電信柱の傍らにおいてある、古びた黒いボストンバック。
人気は少なく、彼らはそれに気づくことなく歩いていた。
周りを見渡して、持ち主がいないか確認する。
だが、そのような人はいなかった。
一度は忘れ物かと考えもしたが、そこにあるバックは明らかに不自然で、あたかもそこに意図的におかれた物だと思わせるようなものだった。
「関わってはいけない。」そんな気がして、ボストンバックが置いてある電信柱を通り過ぎた。
考えるな。
僕には関係ないことだ。
いくらそう考えても、頭の中はあのボストンバックでいっぱいになっていた。
…どうして、あんな場所に?
なにが入っている?
いったい誰が?
そんなことばかり考えてしまう。
僕は足を止め、振り返る。
そして、一歩、また一歩と歩き始め、スピードが上がっていく。
気づいたときには、必死に走っていた。
「…あった。」
息を整え、ゆっくりと周りを見渡す。
大丈夫、誰もいない。
ゴクリと唾を飲み、恐る恐るチャックを開ける。
「………!!」
思わず、息をのむ。
そこには、今まで見たことのないような額の札束が入っていた。
それを見た僕は、急いでチャックを閉め、ボストンバックを手に走り出した。
誰もいないはずの道を全速力で走る。
何度も何度も後ろを振り返る。
まるで、誰かに追いかけられているような気がして、できるだけ早く走った。
それからの家までの記憶はあやふやで、必死に走って帰ってきたことは覚えている。
家に着いた今でも、恐怖にさいなまれている。
暗い自室で、息を潜めてもう一度チャックを開ける。
時間をかけてお金を机の上に出し、額を数える。
「…一億円」
真っ青だった顔から更に血の気が引き、身の毛が立つ。
そして、自分のしてしまった過ちに後悔し、すぐにボストンバックを持って家を飛び出し、交番に向かった。
これは僕が持っていてはいけない。
交番までもう少し、というところで、ある異変に気づく。
自分の足音と重なるもう一人の足音。
振り返ると同時に身体にある衝撃が走った。
「…う゛っ」
背中に感じる冷たい触感と広がっていく痛み。
背後の男が不適に笑った。
僕の目の前は真っ暗になる。
僕の儚い夢は、流れる血と共に消えた
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