第1章

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 私の名前は長沼幸子(ながぬまさちこ)。今年で三十路を迎えるというのに彼氏もおらず、未だに独身のしがないOLだ。  今現在も築三十年以上は経つ、木造二階建ての実家で一緒に暮らしている両親が、私に幸せがたくさん訪れますようにと願って付けてくれた幸子という名にもかかわらず、私は生まれてこのかた幸せとは無縁な生活を送り続けている。  この日もいつものように朝から無難に仕事をこなし、会社の同僚たちから誘われることもなく、真っ直ぐ実家へと帰宅した私は、一階の居間に置かれたテーブルこたつを囲んで、家族三人で夕食をとっていた。  毎日があまりにも平凡過ぎて、これといって両親と話すこともないため、私は視線の先にある、テレビを見ながら箸をすすめる。別に見たい番組があるわけではないが、これもまた、私の平凡な一日の習慣の一つになっている。  何の気なしに見ていた夕方の報道番組では、特に気になるニュースはやっていなかった。しかし食事を終えた頃に流れてきた、一つのCMに目が止まる。それは今週発売されるという、ジャンボ宝くじのCMだった。  最近売り出し中の若いイケメン俳優が、満面の笑みで夢を語っている。それを見た私は、以前に買った宝くじのことを思い出した。当時楽しみにしていた恋愛ドラマの合間に流れたCMに、何故か興味を惹かれて、会社帰りに駅前にある宝くじ売り場に出向き、バラで十枚だけ購入したものだ。  今の今まで買ったことすら忘れていたが、そのCMを見てしまったせいか、私はあの時買った宝くじは、当たっているのかどうかと、俄然気になり始めた。  あの宝くじは、確か私の部屋の中にある、棚の引き出しにしまってあるはずだ。けれど、きっと当たっているはずがないとも思った。私にはくじ運などが無いこともわかっている。  だからこそ、あのくじを買った時にも、何の期待もしていなかった。三千円くらいなら外れてもいいと思って、ただの気まぐれで、買ってみただけなのだ。それゆえすぐに当選番号を確認することもせずに、くじを買ったことすら、記憶から消えていたのかもしれない。  夕飯を終えて、急いで二階へと上がり、自分の部屋に戻った私は、棚の中に眠っていた宝くじを引っ張り出した。使い古した学習デスクの上にあるパソコンを使ってサイトを巡り、当選番号の確認をする。
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