第1章

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 頭に浮かんだ幾つかの疑問を解消すると、ようやく少し眠くなってきた。私は一つあくびをしたあと、再びベッドに移動して目を閉じた。  その後もちょくちょく目が覚めたものの、気付けば朝になっていた。  私はいつもより早めの時間にベッドから起き上がり、携帯電話で直属の上司に電話を掛けた。普段よりも声のトーンを抑えながら、体調不良で仕事を休む旨を伝えると、上司は私が休むなんて、意外だとでも言いたげな反応を見せながらも、それを了解してくれた。  嘘をつくのは心苦しいところもあったが、今日は私が生まれて以来の、重大な用件があるのだから仕方がないと、自分を納得させる。  会社のことを済ませた私は、次に必要なことを考えていた。私が一人で暮らしているのであれば、あとはこのまま銀行が開くのを待てばいいだけなのだが、そうではないため、両親たちにも今日は会社を休むということを、伝えなければいけなかった。  でないとゆっくりこの部屋にいることも出来ない。私が何も言わずにこのままここにいれば、きっと心配した母親が、私が寝坊でもしているのではないかと勘ぐって、部屋まで起こしにくるはずだったからだ。  いつもの朝食の時間を見計らって、私は二階にある自分の部屋を出る。若干急な階段を降りて居間に向かうと、今日の朝刊を手にした父親が、すでに自分の席についていた。年季の入ったスーツに身を包んで、大きく広げた新聞を読みながら、母親が作った朝食が出揃うのを待っている。  奥にある台所に視線を移すと、ちょうど今さっき母親が作り終えたらしい朝食を、父親が座っているテーブルこたつがあるほうへと運んでくるところだった。 「おはよう幸子。今日は仕事の準備をしていないようだけど、時間は大丈夫なの?」  いつもの職場の制服ではなく、寝間着のままで居間に現れた私の姿を不思議に思ったのか、母親が訊ねてきた。 「おはようお母さん……今日はなんだか頭が痛くて、会社を休ませてもらうことにしたの」  私は頭の中に用意していた返事を、そのまま母親へと返す。嘘がばれないようにと、なるべく小声で、元気のなさを装って。 「そうなの、幸子が会社を休むなんて、珍しいわね。そんなに辛いのなら、病院に行ったほうがいいんじゃない?」 「今日一日ゆっくり休めば、治ると思うから、心配しないで」 「そう、それならいいけど、無理しちゃだめよ」
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