独語と手紙

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僕は思うんだ。 いや、きっと僕じゃなくても誰もが通る道だし、そんなものは風邪とか怪我だとかと同じような現象、同類項だろうけれど、しかし本当に、拗らせてしまってる人もなかなかいない。 ほとんどは上辺だけというか、口だけというか、倫理観が踏みとどまらせるというか、必ず転機というものがあるんだ。 でも僕は実行した。実行してしまった。 手首をスッと斬り裂き、浴槽に浸して。冷たくなる身体とは裏腹にじんわりと温かかった感覚。全身の力が、赤黒い液体と混じって抜けていくあの感覚を。 僕は忘れられない。 何故そうしたかというと、本当によくあることでイジメがキッカケではあった。 本来明るかった性根ではある僕がどうしてこんなにも暗くなって冷たくなったかは、今語ることでもないだろう。それはまたの機会だ。 目を通して見る世界は、色彩が死んだかのようにモノクロで。 家の外の明るさは、脳が掻き乱されるように喧しくて。 夏希とかいう、光り輝かしい希望に満ちた名前が、言外、僕を責め立てているかのようで。 嫌いだった。本当に嫌になった。 僕を形作る全てが、僕に取り巻く関係全てが。なにより僕自身の本能が、気がついたら自殺未遂をしていたんだ。未遂という表記を持ち出したし、今これを書いているというところから、わかる通り死んでいない。死ねなかった。どうやら運が良かったらしい。違うな、悪かったんだ。 何はともあれ、中学三年生という大事な時期に、入院することになった。 冒頭述べた、転機というものが本当にあるんだとしたら、僕の転機は間違いなくここだ。 そして、相部屋だった女の子が転機というか、元気だった。 体調的には悪いけれど、精神的には元気な女の子だった。
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