独語と手紙

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いつ死ぬかもわからないその子は無神経で強引で、我儘で。感性が人とズレてて。 だけれど、人の心を見透かすような鋭い奴で。 なんだろう思い出すとムカつくな。とにかく狡い奴。 初対面のくせに。〝死にたそうだね〟と。死にたいのかと訊いてきたのを今でも忘れない。 〝君って素敵だね、明るく輝いてる〟だなんて僕にたいして言ったことも忘れない。 髪を切っているときに〝何か失ってる感じしない?〟とか意味わかんないことを訊いてきたも忘れられない。 僕とお前じゃ体温が必ず1℃違うってのも面白い話だと思う。 まぁ、これらは全てふとした時に忘れるような、どうしようもない思い出だけれど。 一つだけ。 たった一つ、忘れたときが一時もない言葉がある。 〝私は生きたい〟と。 〝後悔なんてないくらい全力で楽しんで苦労したい。いつかわからない、ずっと先の事を考えて1日を越えたい〟と。 目から溢れる輝きは増して、キラキラを零さないようにと目を少し見開きながら独白する彼女を、僕は忘れられそうにもない。 ずっと心臓に突き刺さっている。言葉も表情も。 でも。それでも。僕の死にたいという願望は消えることはなかったというんだから、頑固というか、ここまでくるとやはり病気だ。 何故生きてるかって、そんなのは入院してしまってからというもの真冬の奴が付いてくるようになったからだ。いや僕が付いて来させられたと言う方が正しいかもしれない。 とにかく煩くて僕が折れるしかなかったんだ。 だからなのか、同じ高校にも受験して、同じ部活に入って、共通の友達も出来て、大学も同じで。それ以降はちょっとわからないけれど。 いつも。いつも。いつも。 真冬は、僕の考えの及ばないことをしとのける。 頭の悪いアイツが高校にこれることすらすごいことで、ほとんど休まず学校に通ってたところなんて、もう奇跡だ。 〝生きてるから奇跡は起きるんだ〟と笑顔のアイツは言ってたっけ。 そんなことは当たり前なのにドヤ顔で言うもんだから僕は扱いに困ったことなんて、もはや日常で。 そんなアホみたいな日常のせいで、死にたいと感じる時間も短くなっていった気もする。
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