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ふわふわとした意識の中で、記憶という土地を私は旅をした。逃避行という旅行だ。
どんな時も1人だった私の傍にはいつの間にか1人の男の子が立っていた。
暗い顔をして、すべての不幸を背負った顔をして。真っ黒な瞳で。
いつもいつも目の前すら見えていない男の子。
私とは正反対の男の子は、いつもいつもつまらなそうな顔をする。
それでもいつでも、付いてきてくれる。我儘を笑ってくれる。それはもう本域の苦笑だけれど。
いつ身体のタイムリミットがくるかもわからないから、いつも私は、未来に想いを馳せていた。
そこらへんの子よりも確実に元気なのに今にも死にそうな男の子を引っ張って駆け抜けた、はずだ。今思い返すともっと色々できた気もする。
〝奇跡には代償がつきものだぞ〟なんて夏希は言う。わかった風に言いやがる。
私からしたら、この身体そのものが代償だった。
どこに行くにしてもお母さんがいる。
どこに行くにしても私は1人だ。
なにをしても皆より遅くて。
お家よりも病院に帰ってくる。
気持ちと思いが上手く繋がってくれない。
歯痒くて。悔しくて。
──────たまらなく虚しい。
だけれど奇跡が起こせるならそれでもいいやって思えたキッカケも、やっぱり、夏希だった。
〝代償が大きい分、お前の奇跡は続くのかもな〟そう言ってくれたのは1度だけ。高校に入学できたとき。
あの驚いた顔も忘れない。本当に入学できるなんて思ってもいなかったんだってさ。
凄く嫌そうな顔をしていたけれど、私は見ないフリをして、高校生活を夏希と過ごした。
そのおかげで、とても楽しかった。無理をしたこともあったけれど、楽しかったんだ。
夏希は私と正反対だから、
アイツは楽しくなかったんだろうな。
好きだったから────嫌いだったんだろうな。
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