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と悠斗が強がる。
「じゃあ、実際にやってみればいい。」
「え″っ」
サフィオに続き葉も促す。
悠斗も後に引けなくなった。
「………やるよ。」
と言いつつ、絵の前に立つ。
「おいで」
呼びかけた悠斗の顔がびびっていた顔から不機嫌な顔になった。
待っていても、別に何かが起こるわけでもない。
教師には、傾いていく夕陽が射し込んでいただけ。
「これでいいんだろ?じゃあ帰ろうぜ。」
ホッとした悠斗が教室から出て玄関へ向かおうとすると、誰もついてこない。
教室の中央で、サフィオと葉が立ち尽くしていた。
二人は顔を合わせていた。
そろって曇った顔をしていた。
口を開きかけて、閉じた。
「何してんだ?帰るよ?」
悠斗の呼びかけにサフィオが頷く。
サフィオが動き、葉も教室から出た。
二人は、悠斗を置き去りにするような早足だった。
二人が一言二言会話をしている間に悠斗が来ると、双方が口を閉ざす。
玄関を抜け、入った時より傾いて赤みを増した夕陽が三人を迎える。
大理石の階段を下り、旧校舎の敷地から出て学生寮へと向かう。
新校舎まで来ると学生達の声が聞こえてくる。
夕日に染まった世界は、急速に夜の群青色へと変わっていった。
学生寮の外に広がる学園の敷地内は、暗かった。
談話室のソファーに座る悠斗は
「いやー、なかなか怖かったな。ま、良かったわ。」
などと一人で感想を漏らしていたが、やがて室内の雰囲気に気づく。
サフィオと葉はノってこない。
談話室にある大時計の時を刻む音だけが妙にはっきり響いていた。
「おいおい何だよ?ノリが悪くない?」
悠斗の不愉快そうな声にも反応かない。
「何だよー?何黙ってんのさ?」
悠斗の声に、サフィオが反応した。
「悠斗、君に言うべきか迷っていたのですよ。幻聴かと思い葉にも聞いたのですが、どうも聞こえたような気がすると言っています。だから…………」
サフィオの言葉に、葉が口を開いた。
「その、な。聞こえちまったんだよ。悠斗が『おいで』って呼びかけたあと………」
粘りつく舌を動かして、葉が続ける。
「壁の中からな、『そっちに行くよ』って声が………」
葉の真剣な顔。
一拍おいて、悠斗が爆笑した。
「アハハハハハっハハハハっ!」
笑い声か談話室に響く。
ソファーで体を折って悠斗が笑っている。
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