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足が壁に立てられる。
男は壁に垂直に這っていた。
次に生物を握ったままの左手。
そして手と足の動きが、一気に加速。
左手と左足、右手と右足が別の回転をし、蜘蛛のように登ってくる。
ペタペタという音を立てながら、手足を振り回して登ってくる。
左手に生物を掴んでいて、この壁を登れるわけがない。
「来た来た来た来た来た来た来たっ!?」
「なになになになによあれっ!?」
悲鳴とともにデビィが窓から離れて部屋に転がる。
悠斗は急いで動き金属音がする勢いで窓を閉め、即座に鍵をかける。
ド ンッ !
「うひぁっ」
衝撃でいまだ振動するガラスの表面に、吸盤のように押しつぶされた手と足の裏が見えた。
喉から出た悲鳴が悠斗自身にも信じられない。
硬直すら二人の眼前、窓ガラス一枚隔てた向こうで、カエルのように男が貼りついているのだ。
ビニール袋に覆われた顔が、ガラスにに押しつけられてきた。
穴からのぞく紅い瞳が、室内の二人を見つめる。
デビィを背後にかばう悠斗の額に脂汗が浮き出ていた。
動けない。
動けない。
「き?¬⇔∵∞∝∫∫たΘ:@*;よっ」
男が叫んだ。
地の底から響いてくるような声に、窓ガラスがビリビリと震える。
男はさらに叫ぶ。
「ΩΧΡΥβΣαΩΨΡΠΦΨΩαλκηθγРЙЛТОЗ」
「!????▽△□▼?◎◆]}}」
「※‡§あ┏┣┓そ⊂?∪⊆ぶ??~」
禍々しい声と言葉だった。
男は歌っていたのだ。
歌声の中、悠斗は息もできずに凝視していた。
男の禍々しい存在感そのものから目が離すことができなかったのだ。
そして、男の左手に握っている生物に気づいてしまった瞬間、背中に怖気が走った。
「アヒャャャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャっ」
窓に押しつけられた眠そうな目と髭。
肌は白蝋となった男の顔。
生物(よく見たら猫)には、成人男性の顔がついていたのだ。
猫の体に成人男性の首は、明らかに直径が合っていない。
猫の首が盛り上がって無理やりくっついていた。
「≪あ《┗そ┓┣×÷-ぼ×≫」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
二人の前で叫び続ける男と猫。
悠斗は譫言を漏らしながら、左右に首を振る。
「なんだよコイツら、なんだよコイツ、何なんだよコイツら!」
首を振りながらも、目は窓ガラスの向こうの異形から離すことはできない。
デビィは悠斗の背中に顔を埋めていた。
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