一億円じゃたりない

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彼女は恥ずかしいのか、しきりに歌うのを拒むも、まんざらでもない表情をして、リクエスト吟味する。 店側の粋な演出で照明がカクテルライトに変わると、はにかむのを止め覚悟を決めた、 いざ彼女のライブが始まった。 アニソンならこれ!という誰もが知っている有名曲、イントロから既に有る説得力で、他の客達も垣間見る、そして、その美声が一度耳に入れば、甘美な声は世界を変える、 そこに居るものは聴く事以外の全てを止め、ただ、唄に身を任せるのであった。 歌の終わりと同時に現実に返る、 歓声と称賛の拍手が高鳴ると、彼女は満面の笑みでオレ達に応えた。 「ありがとうございます!」 オレはすかさず、またお願いをした。 「アンコール!アンコール!」 他の客も乗ってくれた。 「アンコール!アンコール!」 彼女は喜びの悲鳴をあげた。 「えーっ!」 すかさず、オレはまたチケット十枚を差し出して最高の場面をプロデュースするのであった。 他のお客にも、お酒やらハニーアップルトーストやらを振る舞った。 その空間の誰もが一体となって、宴を楽しんだ。 声優志望の彼女達といつの間にか仲良くなったオレは同じテーブル席に座って好きなアニメの話や歌の話で盛り上がった。 そして、その日の終わりも後三十分を残す頃、儚き夢が覚めるのであった。 「ラストオーダーです、よろしいですか」
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