第1章

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 よ、親爺さん、ひさしぶり。え? 俺? 元気だよ。あー、まあ、ここんところ忙しかったかな。  あ、とりあえずビールね。ここはいつ来ても混んでるね。商売繁盛、けっこうなことじゃないか。  そうそう俺さ、家買ったんだ。都心の一等地ってわけにはいかなかったけど、郊外で交通の便が良いところに。これから子どももでかくなるだろ? 今のアパート暮らしじゃ手狭になってくると思ったんだよね。  なんだい、親爺さん? 変な顔して。  実はここだけの話、一億円手に入れたんだよ。それで冷蔵庫と洗濯機も買いかえてね、あと電子レンジも。電子レンジは妻が最新式のやつが欲しいってずいぶん前から言っていたから。  ん? 親爺さん、苦虫を噛み潰したような顔になってるな。  ああ、まあ……一億円手に入れたなんて軽々しく言うもんじゃないか……。なに、親爺さんにだから話してるんだよ。そうそう子どもの学費もけっこうかかるよな。ちゃんと考えておかないと。    え? なんだって?   俺の妻と子どもはこの前、事故で死んだ?  一億円はそれで支払われた慰謝料?  おいおい、真剣な顔して何を言い出すかと思えば……。親爺さんまで……。    縁起でもないこと言わないでくれよ。家が心配になってきたじゃないか。もう帰るよ、ごちそうさん。  そういや、最近、妻と子どもの帰りがやけに遅いんだ。いったい昼間、どこに行ってるんだろう?
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