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「そんな……、親父に借金があったなんて聞いてないです……っ」
家に上げ、テーブルを挟んでの会話。
狼狽える俺の目の前に、ある用紙が出された。
借用書だ。確かに親父の名前と、拇印がある。字も……親父が書いていた字とよく似ている。
そして、記載されていた額に、目の前が真っ暗になった。
「こんな……親父の借金なんて、払えないですよ!」
そこには、一億円を更に越える金額が記載されていた。
「でもねえ、貴方。遺産相続したんでしょう?」
「それがどうしたんです……」
「相続ってのはね、何もプラスの財産だけじゃない。
マイナスの財産──つまり、借金も含まれる。
遺産を相続するっていうのは、そういう事なんですよ」
マイナスの財産……何だよそれっ。それじゃあ俺は、一億円が手に入ったどころか、逆に多額の借金を背負っちまったって事なのか……?
「じゃ、じゃあ取り消す!
相続は取り消すよ!」
「残念ですねえ。相続放棄は、亡くなったと分かってから三ヶ月以内に手続きしないとダメなんですよ。
それに少し調べさせて貰ったんですけど、貴方、父親の持ち家の名義を自身の名義に変更手続き済みだそうですね。しかも既に売り払って、手に入ったお金は幾らか使用した。
そうなると、確実に放棄なんて出来ませんよ」
何だ……俺はまた夢を見ているのか?
一億円を手に入れた夢。
それから、多額の借金を背負った夢。
何だよそれ……わがままは言わない。言わないから、どうか全部夢であってくれ……っ。
呆然としている俺の前で、男は話を続ける。
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