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次の日から、俺は仕事を増やした。
毎日毎日仕事に明け暮れた。
妻に心配されたが、俺は笑って誤魔化した。
一億円は、借金返済には充てていない。
全額返済に充ててもまだまだ借金は残るし、利子は固定だからいくら借金が残ってようが変わらないし。何よりも、一億円が無くなったとして、家族に悟られ理由を聞かれるのが嫌だった。
あの日男達にそれを告げると、どういう事だかあっさりと納得して帰っていった。
自己破産も一度考えた。けれど、そうしたら預金が数十万円しか残せないとテレビか何かで見たことがあったので、これも脚下した。
とにかく、全部俺の所為だ。一億円という魔力に惹かれて、冷静な判断が出来なくて、すぐに相続を決めてしまった俺の……。
寝る間も惜しんで働き、口座にたんまりと預金のある親父に、借金なんてある訳が無い。あったとしても、一億円の前には微々たるものだろう──そんな色眼鏡を、俺は掛けてしまっていたんだ。
そんな生活を何年も続けた。
息子はすっかり成人し、家を出て一人暮らしを始めた。
俺はというと……すっかり腐りきっていた。
肉体的にも、精神的にも。
払っても払っても減らない借金に、俺は神経を磨り減らしていたんだ。
日々の生活費に、利子の支払い。
とてもじゃないが、借金の分に回すお金なんか無い。
あれほど尊敬していた親父に対して、最早恨みしか残っていなかった。
何で親父は、あんな事を言ったんだっ。
あれじゃあまるで、俺を騙すつもりで言ったみたいじゃないか……!
全部全部何もかも、親父が悪い!!
俺は親父の仏壇の前で、毎日毒を吐くようになっていた。
どうして俺だけが、こんな目に遭わなきゃならない……?
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