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気が付けば、病に伏していた。手遅れらしい。
末期のガン。
歳もすっかり、くってしまった。
亡くなる直前の、親父くらいの歳だ。
息子が、時折見舞いに訪れる。
女房と、子どもを連れて。
三人共、幸せそうに笑っている。
……俺はあんなに苦しんできたというのに、お前達はなぜそんなにも幸せそうなんだ?
俺が何をした?
俺が神様に、喧嘩を売るような真似でもしたのか?
どうしておれだけが、こんなめにあわなきゃならない……?
やがて、体を動かすどころか、喋る事さえも辛くなってきた頃。
俺は息子を、病室に呼び出した。
息子を静かに見上げる。
今でちょうど、親父が亡くなる直前の俺くらいの歳になっただろうか。
時が経つのは早いものだ。
俺に向けられている眼差しは、あの日──働き者で、真面目で、頑固なところもあるけど優しい、尊敬する親父に向けていたのと、同じものだった。
「どうしたんだよ、親父」
心配そうに覗き込んでくる息子を見て、昔の幸せだった頃に思いを馳せながら、俺はゆっくりと口を開いたのだった。
「大事な話だ。……俺の通帳を見てみなさい」
(了)
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