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「書いてみる気ない?
ぜひ、うちとしてはあなたの原稿をひとつの作品として全面的に押し出してみたいのよ」
突然の誘いだった。
そう言った柏原さんの目は私を強く見つめている。
「結構です。興味ないんで」
その問いに私はそっけなく答えた。
そんな私を見て、柏原さんはさらにアプローチをかけてくる。
「あなたにとっても悪い話じゃないと思うの!
全国にあなたの名前を知らせるいい機会……。
チャンスだと思ってくれないかしら?」
柏原さんの言葉に私はぴくりと反応する。
「機会? チャンス? バカにしてるんですか、私のこと」
「え?」
少し強い口調になった私の言葉に柏原さんは目を丸くしていた。
「私、病気のことを武器にして知名度あげようなんて思ってませんから!
失礼します!」
その場にいた人の視線を集めていたかもしれないが、私はそんなことに目もくれずその場を後にしようとすると柏原さんは慌てて声を上げる。
「ちょ、ちょっと!
少しでも気が変わったら連絡ちょうだいね!」
私は店を出て、タクシーを拾った。
タクシーに飛び乗ると、運転手に家までの道のりを伝える。
そして、走り出した車両の中で窓の外を見ながらそっと涙を拭った。
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