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「柏原さん、私にエッセイを書かないか? って提案してきたんだ」
「そうなの? いい話じゃない!」
智子の顔色は一気に明るくなる。
それと正反対に私の顔は涙でぐちゃぐちゃになった。
智子のその反応に余計に辛くなり、涙がとめどなく流れたのだ。
「ど、どうしていい話なんだよ……。
柏原さんは私の文才に惹かれたんじゃない。
ただ、病人の手記を売り出そうとしているだけなんだよ?」
私は今回、柏原さんが全面的にサポートをして商業出版してくれるという話が小説家としてではなく一人の患者、それも重度の体験例として売り出そうしていたことに腹が立ったし、自分の病気を売りにするつもりもなかったため、辛さが募った。
「あなた。文才やあなたの経験を見つめてくれたから柏原さんはあなたに声をかけたのよ?
だって、手記だなんて普通の人には書けないわ。
もし、私だったらその話受けるわよ?」
「私は作家として頑張りたかったんだ!
なのにどうして手記なんて……。
そんな恥をさらすようなこと出来るわけない!」
私は心の内を智子にぶつけた。
昔の私では考えられないことだ。
感情をここまで出せるようになったのは他でもない智子のおかげだ。
そんな智子に私は今、当たり散らしている。
そう思うと、より一層辛さが増した。
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