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「もう一度、おっしゃって下さい」
彼の突飛な申し出に耳を疑った。
行きつけのバーで偶然隣り合わせた紳士の言葉は、30年生きてきて初めてされる種類のお願いだったからだ。
「はい、ですから……。ここに一億円あります。
これをあなたの信用するどなたかに渡して欲しいのです。
その際、この一億円から手数料として100万円差し上げます。
従って残りの9900万円をどなたかにお渡しして下さい。
その際、次の方にも同様に100万円の手数料をお支払いして、その残りをその方が信用する次の方に……」
「なぜそんな馬鹿げた事を?」
「私はもう、長くありません。
色々な病院で診てもらいましたがね、みな口を揃えて後悔が無いよう残りの時間を使えと。痛み止めばかり惜しみなく処方してくれました。
私は今まで仕事人間でねぇ……。
こう見えてもそこそこの資産があります。
しかし、お恥ずかしながら私にはそれを残したいと思える家族も兄弟も友人もおりません」
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