5人が本棚に入れています
本棚に追加
あれから十数年。
頭上を、かつてのように何十羽…いや、何百羽という鳥がはばたき、行き過ぎた。
猛禽類に追われている。夕暮れが迫ったので巣に帰る。雨が降りそうだからやはり巣に帰る。
そんな場面を山程見つめ、見送った。季節には、色んな渡り鳥が現れ、あるいは飛び立つ様子も見送った。
その空を、黒雲のようにうねる小鳥たちが飛んで行く。いや、逃げて行く。
あの日、今は亡き祖母が、私の問いに答える暇もなく私を連れて逃げた日に感じた、どうしようもなく得体の知れない空気が、鳥達がやって来た空の向こうから近づいて来る。
本当は、今すぐ帰るべきなんだろう。小鳥達のように、祖母のように、大慌てでこの場を立ち去るべきなんだろう。
でも、募りすぎた好奇心は恐怖心を凌駕して、違う意味で私の足をここに縫い留めている。
きっと、見てはいけないものが来る。
きっと、知ってはいけないものが来る。
それを予感しているのに、判っているのに、私はもうこの場から動けない。
遥か遠くで、逃げ切った鳥達のはばたきが聞こえた…。
鳥のはばたき…完
最初のコメントを投稿しよう!