鳥のはばたき

1/2
前へ
/2ページ
次へ

鳥のはばたき

 頭上を、ふいに何十羽…いや、何百羽という鳥がはばたき、行き過ぎた。  鳴き声を残しながら、うねる黒雲のような一団が飛んで行く。それを見上げながら、私は、隣に立つ祖母に尋ねた。 「おばあちゃん。鳥、いっぱい飛んでった。何で?」 「ああ。あれはねぇ。大きな鳥に追われて、逃げてるんだよ」  祖母が答えながら空を指差す。鷹か鷲か、あるいは他の鳥なのかはよく判らないけれど、そにこは確かに、逃げて行く小鳥たちよりも遥かに大きな鳥が飛んでいた。  今ならば、猛禽類が捕食のために小鳥を追っているのだと判る。でも当時の私にそんなことは判らなくて、ただ、小鳥が大きい鳥にいじめられて逃げてるのだとそう思った。 「小鳥さん達、逃げられるといいね」 「そうだね」 * * *  頭上を、また何十羽…いや、何百羽という鳥がはばたき、行き過ぎた。  今日は、後から大きな鳥が飛んで来ない。だったら小鳥達は何から逃げようとしているのか。 「おばあちゃん。小鳥さん達、今日はどうして逃げてるの?」 「逃げてるんじゃないよ。みんなね、巣に帰ろうとしてるの」 「巣に帰る?」 「もうじき夜になるから、鳥さん達もおうちに帰るの」 「ふーん、そうなんだ」 * * *  頭上を、何十羽…いや、何百羽という鳥がはばたき、行き過ぎた。  まだ時刻は昼近く。巣に帰るような時間じゃない。追ってくる大きな鳥もいない。 「おばあちゃん。小鳥さん達、まだおうちに帰るには早いよね?」 「そうね。でも、あっちの空をよく見てごらん。黒ーい雲が広がってるでしょう? 鳥さん達は、もうじき雨が降ると判ったから、 今日はそれでおウチに帰ろうとしてるんだよ」 「雨が降るの、判るんだ。小鳥さん達って凄いんだね」 * * *  頭上を、今日もまた何十羽…いや、何百羽という鳥がはばたき、行き過ぎた。  鳥達が大移動をする、今日の理由は何だろう。 「おばあちゃん…」  理由を聞こうとした私を、突然祖母は抱き上げた。そのまま一目散に家へと走り出す。  その、ただならぬ様子に、何を問いかけることもできず、私は黙って祖母に家へと連れ帰られた。 * * *
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加