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鳥のはばたき
頭上を、ふいに何十羽…いや、何百羽という鳥がはばたき、行き過ぎた。
鳴き声を残しながら、うねる黒雲のような一団が飛んで行く。それを見上げながら、私は、隣に立つ祖母に尋ねた。
「おばあちゃん。鳥、いっぱい飛んでった。何で?」
「ああ。あれはねぇ。大きな鳥に追われて、逃げてるんだよ」
祖母が答えながら空を指差す。鷹か鷲か、あるいは他の鳥なのかはよく判らないけれど、そにこは確かに、逃げて行く小鳥たちよりも遥かに大きな鳥が飛んでいた。
今ならば、猛禽類が捕食のために小鳥を追っているのだと判る。でも当時の私にそんなことは判らなくて、ただ、小鳥が大きい鳥にいじめられて逃げてるのだとそう思った。
「小鳥さん達、逃げられるといいね」
「そうだね」
* * *
頭上を、また何十羽…いや、何百羽という鳥がはばたき、行き過ぎた。
今日は、後から大きな鳥が飛んで来ない。だったら小鳥達は何から逃げようとしているのか。
「おばあちゃん。小鳥さん達、今日はどうして逃げてるの?」
「逃げてるんじゃないよ。みんなね、巣に帰ろうとしてるの」
「巣に帰る?」
「もうじき夜になるから、鳥さん達もおうちに帰るの」
「ふーん、そうなんだ」
* * *
頭上を、何十羽…いや、何百羽という鳥がはばたき、行き過ぎた。
まだ時刻は昼近く。巣に帰るような時間じゃない。追ってくる大きな鳥もいない。
「おばあちゃん。小鳥さん達、まだおうちに帰るには早いよね?」
「そうね。でも、あっちの空をよく見てごらん。黒ーい雲が広がってるでしょう? 鳥さん達は、もうじき雨が降ると判ったから、
今日はそれでおウチに帰ろうとしてるんだよ」
「雨が降るの、判るんだ。小鳥さん達って凄いんだね」
* * *
頭上を、今日もまた何十羽…いや、何百羽という鳥がはばたき、行き過ぎた。
鳥達が大移動をする、今日の理由は何だろう。
「おばあちゃん…」
理由を聞こうとした私を、突然祖母は抱き上げた。そのまま一目散に家へと走り出す。
その、ただならぬ様子に、何を問いかけることもできず、私は黙って祖母に家へと連れ帰られた。
* * *
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